サイレント映画の黄金時代(ケヴィン・ブラウンロウ,国書刊行会,2019)
おはようございます、チェ・ブンブンです。
皆さんは、10万円の給付金で何を買いましたでしょうか?ブンブンは、普段中々手が出せないものを買おうとバランタイン21年やバルバンクール15年、クヴェヴリ製法で作られたジョージアワインなどお酒に走ったり、お家キャンプ用にテント買ったり、ガイ・マディンの数万円するBOXを買ったりと経済回しています。そんな中で、国会刊行会が昨年発刊した9,000円以上するモンスターブックこと『サイレント映画の黄金時代』を購入しました。この本が、今年ベスト級の神本だったので読書感想文を書こうと思います。
『サイレント映画の黄金時代』概要
〈サイレント映画〉の魅惑と巨大な謎を解き明かす記念碑的名著、ついに邦訳!
最も古くて最も新しい
「映画」の永遠の魅力のすべてが
よみがえり躍動する名著、名訳。
ページをめくるごとに貴重な映画史的資料の
数々に目をみはりつつ、
読めば読むほどその映画的な、あまりに映画的なエピソード、
証言、実録の面白さに魅せられ、
映画を愛し、映画に愛される幸福感にみたされてくる驚異の大冊。 山田宏一今や過去の遺物とされるサイレント映画。しかし、トーキー(サウンド映画)になる前のほうが映画はもっと豊かで、娯楽性・芸術性すべてにおいて現在よりはるかに豪華で洗練され完成されたものだったことを人々は忘れている……誰もが知るスター(バスター・キートン、メリー・ピックフォード、ルイズ・ブルックス…)や名監督(ジョゼフ・フォン・スタンバーグ、ウィリアム・ウェルマン、アベル・ガンス…)、さらにはプロデューサー、脚本家、キャメラマン、編集技師、字幕作者、スタントマンなど映画を陰で支えた知られざるスタッフへのインタビュー、そして精緻な資料調査で得た波瀾万丈たるエピソードで、サイレント映画の豊饒なる世界が鮮やかに痛快に甦る。日本版附録として〈サイレント期アメリカ映画人名事典〉を収録。序文=岡島尚志(国立映画アーカイブ館長)
※国会刊行会ページより引用
あなたの知らないサイレント映画の世界
あなたはサイレント映画をご存知だろうか?
映画を勉強している人なら、『國民の創生(1915)』に始まりチャップリン、キートン、ロイドと三大喜劇王を嗜み、『ジャズ・シンガー(1927)』へと辿り着く。『死ぬまでに観たい映画1001本』フルマラソン参戦者にとってはサイレント映画はある種の鬼門となっており、上映時間が長いアベル・ガンスや作品数が多いD・W・グリフィスやセルゲイ・エイゼンシュテインが残りがちである。
21世紀を生きる我々にとってサイレント映画は娯楽というよりかは、考古学的勉強の映画が強く、演出の原点を学ぶ印象が強い。そんな勉強勉強したサイレント映画に眠る熱いドラマや政策の裏側を教えてくれる唯一無二の本がこの『サイレント映画の黄金時代』となっている。この本では、ネタ不足に悩む映画界がダルトン・トランボやマイケル・カーティス、ハーマン・J・マンキーウィッツと半世紀以上前の映画人の伝記映画を撮るようになった今ですら未だに脚光を浴びていないドラマがあることを示している。
例えば、本作には『キング・コング(1933)』、『スタア誕生(1937)』、『風と共に去りぬ(1939)』、『レベッカ(1940)』などを輩出したトーキー初期の名プロデューサー、デヴィッド・O・セルズニックの章がある。何故、サイレント映画の本なのにトーキー時代の名プロデューサーの章があるのかと疑問に思うかもしれない。デヴィッド・O・セルズニックのOには全く意味がなく、親戚への反発のため飾りとしてつけたミドルネームだというラース・フォン・トリアーにおける”von”の扱いに近い驚愕エピソードから始まる本章では、現在最も過小評価されているウィリアム・A・ウェルマンの魅力を彼が饒舌に語る様子が綴られている。
記念すべき第一回アカデミー賞作品賞を受賞しているにもかかわらず『死ぬまでに観たい映画1001』にすら掲載されていない『つばさ(1927)』の監督であるウェルマンは、サイレント映画からトーキーへと切り替わる段階で「マイクを動かす」ことを発明したとセルズニックは語っている。1928年『人生の乞食』を撮影する際にマイクを固定することに囚われた録音班に彼は怒り、「人物の動きに合わせて録音せよ。」と命じた。また、彼はアメリカにおいて滑車を使った流れる移動撮影を行った最初の監督でもあり、いかに彼の功績が歴史に埋もれてしまっているのかが感じ取れる。
また、本作ではアベル・ガンスの章が魅力的である。アベル・ガンスといえば、三面スクリーン「ScreenX」のシステムを映画史初期に考案した人物で有名で、『ナポレオン(1927)』のフランス国旗色に染まった三面が観客の眼前に飛び込むスペクタクルは伝説として語り継がれている。そんな彼の実験精神はソ連の監督に影響を与えており、『鉄路の白薔薇(1923)』はセルゲイ・エイゼンシュタインやオレクサンドル・ドヴジェンコを魅了されたことが記述されている。そのことからドヴジェンコが後に撮った、列車事故シーンが凄まじい『武器庫(1929)』が、アベル・ガンスへのラブレターであることが判明する。そこに映画考古学的感動が出ている。
ただし、本書にはどうしても抜け落ちてしまう映画史の観点があり、例えばルイ・フイヤードが手がけた『ファントマ(1913~1914)』や『レ・ヴァンピール 吸血ギャング団(1915~1916)』といったシリアルやジガ・ヴェルトフの『カメラを持った男(1929)』周辺の話は877ページの歴史に入りきっていなかったりする。それでも、『ベン・ハー』を巡る映画化権の戦いや、トーキー映画の最初は『ジャズ・シンガー(1927)』ではない、『西部戦線異状なし(1930)』が製作の途中でサイレントからトーキー映画へ変わった話など、読めば読むほどサイレント映画に対するイメージや、知らない映画裏話に知的好奇心が満たされていく。これは、映画好きMUST BUYな代物と言えよう。
CHE BUNBUNのサイレント映画ベストテン
1.キートンのセブン・チャンス(1925)
2.カメラを持った男(1929)
3.つばさ(1927)
4.ロイドの用心無用(1923)
5.鉄路の白薔薇(1923)
6.メトロポリス(1927)
7.武器庫(1929)
8.ブランカニエベス(2012)
9.月世界旅行(1902)
10.ファントマ(1913~1914)
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