【 #サンクスシアター 4】『遭難フリーター』闇が生まれる瞬間を見た

遭難フリーター(2007)

監督:岩淵弘樹

評価:採点不能

おはようございます、チェ・ブンブンです。

MiniTheaterAIDのリターンである《サンクスシアター》の作品を物色していたら、ご飯を汚らしく貪り食う、強烈なヴィジュアルと邂逅した。『遭難フリーター』というらしい。これは必見だと思い観賞したのですが、『パラサイト 半地下の家族』で風刺される貧富の差の実例として怖いほどに自分の心に刺さった作品でした。

『遭難フリーター』あらすじ


大学卒業後、派遣社員としてプリンターの製造業に就くが、先の見えない将来への不安を抱える23歳の自分自身を映したセルフドキュメンタリー。
※サンクスシアターより引用

闇が生まれる瞬間を見た

2000年代の閉塞感は、当時小・中学生だった自分もよく覚えている。就職氷河期、失われた20年と呼ばれ、大人になることがまだ漠然としていた私ですら、「就職できるのだろうか?」という不安を抱えていた。本作の監督であり、主人公である岩淵弘樹はまさにその閉塞感の渦中にいた。若者の3人に1人が非正規雇用の時代。その30%の中に属し、キヤノンの工場でひたすら単純労働を強いられる彼が、東京へ行きたい、自分のしたい仕事をしたいという焦燥をカメラに吐露していく。キヤノンの工場内を隠し撮りしたであろギョッとする描写から始まり、そこから我々観客が思いもしなかった別の闇があぶり出されていく。

彼は旧友を訪ねて、インタビューをしていく。大手レコード会社の正社員となった男と居酒屋で呑むのだが、彼から「その仕事望んでやっているんでしょ?」、「仕事なんて山程あるのだから探せばいいじゃん」と説教を食らう。そして自分が「雑誌関係の仕事に就きたい」という想いが、漠然としていて完全に論破されてしまう。彼の心は徐々に壊れ始めていく。労働に関するデモに参加していくうちに、マスコミから貧しき若者代表へと仕立て上げられていく岩淵弘樹だったが、マスコミの自分を食い物にしていく様子や、まるで犯罪者のようにモザイクをかけられ放送される自分に嫌悪感を抱く。そして大学卒業後、正社員となり、手取り20万超えで働く友が「まあこのまんまでいいかな」と人生イージーモードな発言をしていることに憎悪を抱くようになるのだ。

『パラサイト 半地下の家族』では、階段の死角を巧みに利用し、富める者からは観測できない貧しき者の感情を捉えていた。富める者が貧しき者に憐れみをかけても、それは表面をなぞる程度だ。ここに登場する彼から見ての成功者は、別に貧しき者を見下している訳ではない。ただ、何気ない発言が貧しき者の心の闇を押し広げてしまっている。本作を観ると、かつて小説家のリービ英雄と「恵まれない者への寄付は有効かどうか?」を議論した際に、「金を与えるのは有効ではない。金を稼ぐ方法を教えることこそが有効だ。」と語り対立したのだが、あれは富める者の視点だった。変化しないと生き残れないとか、努力が足りない、自己責任で片付けられてしまいそうだし、一見正論に見えるのだが、それは変わろうとしてなかなか変われない人に対して憎悪を宿すだけだったのだ。

岩淵弘樹は後にWACKの『IDOL-あゝ無情-』を撮った。本作は未見であるが、予告編を観ると明らかにパワハラな現場を捉えていた。しかも、それは社会批判としてではなく、アイドル奮闘記として捉えているっぽかった。それと本作の関係を観察すると、恐ろしい闇が生まれる瞬間を見たような気がした。

私もよく会社の先輩後輩と話す中で「このボンボンめ」みたいなことを言われるし、かつて似たような闇を抱えるシネフィルと遭遇したことがある。自分がいつ闇持った人間が生まれる瞬間を作る手助けをしているかはわからない。それだけに、この映画のことは胸に刻んで、自分はラッキーだったんだと言い聞かせて生きてゆきたい。

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