旧支配者のキャロル(2011)
監督:高橋洋
出演:松本若菜、中原翔子、津田寛治、本間玲音、伊藤洋三郎etc
評価:95点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
いよいよサンクスシアターがオープンしました。サンクスシアターとは、コロナ禍で絶滅の危機にある映画館を救済しようとするクラウドファンディングMiniTheaterAIDの特典であり、未DVD化の貴重な日本のインディーズ映画が観られるプラットフォームである。劇場公開に拘っていた空族ですら『バンコクナイツ』を特典に提供する程に今、日本の映画業界は危機に瀕しています。映画に人生救われたブンブンも10万円程出資しています。さて、折角特典で80本のレア映画が観賞できるのであれば、日本映画界を盛上げるべく、ブンブンもしっかり感想書いていきたいと思う。というわけで第一回目の感想は高橋洋監督の『旧支配者のキャロル』について書きます。本作は、『女優霊』や『リング』等の脚本を手がけ、ジャパニーズホラーブームを牽引した高橋洋監督が映画美学校第13期高等科とのコラボで制作した作品です。
2012年の映画芸術ベストテンでは下記の通り4位に輝いた功績を持つ作品であります。映画芸術は逆張りなワーストばかり目がいきがちですが、ベスト選出作品は信頼できる(但し、荒井晴彦関連作は除く)。予告編を観ると、食指が動かないレベルのチープな作品に見えるかもしれませんが、、、観ず嫌いしてすみません。大傑作でありました。
2012年映画芸術ベストテン
1.かぞくのくに
1.苦役列車※同率1位
3.Playback
4.旧支配者のキャロル
5.桐島、部活やめるってよ
6.先生を流産させる会
7.黄金を抱いて翔べ
8.ライク・サムワン・イン・ラブ
9.その夜の侍
10.SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者
『旧支配者のキャロル』あらすじ
映画学校の卒業制作の監督に選ばれたみゆき。彼女は講師であり、憧れの女優、早川ナオミに出演を依頼する。監督という大役に熱が入るみゆき。だが、ナオミが科す試練はあまりに過酷だった。「現場では心にスタンガンを持て!」ナオミの言葉を反芻する現場にただならぬ緊張感が走る。プレッシャーと戦うみゆきは撮影を続けるが、現場は熾烈を極めていく…。
※サンクスシアターより引用
撮るか撮られるか映画撮影は魔界の儀式
どんな場所にもいる嫌な奴。
そいつに復讐するならあなたはどうするだろうか?
舞台は映画学校。鬼教師・早川ナオミとの講義もクライマックスとなり、いよいよ卒業制作に取り掛かる。散々、彼女の罵声を浴びせられてきた生徒は邪悪な空気が取り巻き、一触即発な状態となっている。そんな中、会社を辞めてまで映画学校に通うみゆきは、映画監督という役職に就き、1本のシナリオを提出する。
『旧支配者のキャロル』
あからさまにナオミに対する復讐を醸し出すこのタイトルを彼女は嘲笑い引き受ける。相手方は、彼女の指名で萎縮しきっている村井に決定する。この時点で、ナオミの凶悪な意地悪さが滲み出る。復讐をカウンターしてやるという気概が見え隠れしているのだ。そして、撮影が始まる。案の定、罵声が飛び交う現場。ここで、ナオミ役を演じた中原翔子に注目していただきたい。彼女は、明らかに大女優になれなかった落ちこぼれだ。落ちこぼれというのを隠そうと、生徒に高慢な態度をとり、支配者であり続けようとする。ストイックな女優であるので、彼女の演技には安っぽさと超絶技巧が入り乱れる。彼女のセリフ読みは、演劇的大味さがあり映画にはなっていないのだが、彼女がギョロッと目をあけ官能さを強調する仕草に辛うじて映画が宿る。この微妙な匙加減が、現場のヒリヒリした緊迫感へと繋がり、独特な面白さが滲み出る。
そして、卒業制作の場では先生/生徒の関係が役者/スタッフの関係に変わる。生徒は、スタッフとしてポリシーを持ってトラウマになっている鬼教師を克服しなければいけない。彼女を《旧支配者》にすべく、《支配者》にならないといけないのだ。ナオミは圧をかけ続ける。
「このシーンはいらないんじゃない」
「頑張るじゃねぇんだよ」
生徒の行動、言動全てに噛み付くこの鬼は、生徒同士の軋轢をスタンガンで麻痺させながら広げようとする。そして、映画を盛上げるために、時間ではなくフィルムの量でタイムリミットを設けることで、観客ですら緊張していく。果たして、彼女たちの復讐は成功するのかと。これはまさしくアクション映画である。撮る/撮られるの関係性を、罵声とフィルム感の量、仄暗い空間を緩急つけて捉えることで1秒足りとも油断できないアクションをフレームに刻み込んだ。
そして、あまりにあっけなく、そしてとても怖く、スカッとするエンディングに感動を覚えました。
ジャパニーズホラー嫌い故に高橋洋監督作を嫌煙していたのですが観て大正解。
まさしく、《支配者》が《旧支配者》になる瞬間を目撃しました。
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