『戦争と女の顔』緑を纏うのっぽさんはトラウマの轍を歩む

戦争と女の顔(2019)
BEANPOLE

監督:カンテミール・バラゴフ
出演:Viktoria Miroshnichenko,Vasilisa Perelygina,Andrey Bykov etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第72回カンヌ国際映画祭で開催前から話題だった作品がある。それは『BEANPOLE』である。カバルダ・バルカル共和国出身監督カンテミール・バラゴフの作品である。カバルダ・バルカル共和国という耳慣れない国からの出品に映画ファン、映画関係者の注目を浴びたのだ。カバルダ・バルカル共和国とは、ロシア連邦の一部なので、正式に国と言えるのかは微妙なところだが、とにかく意外な国からの出品に話題となった。そしてそれは単なる映画祭の華に留まることなく、《ある視点》部門監督賞及び国際批評家連盟賞を受賞した。そんな『戦争と女の顔』を観てみました。

※2022/7/15日本公開決まりました。

『戦争と女の顔』あらすじ


1945, Leningrad. WWII has devastated the city, demolishing its buildings and leaving its citizens in tatters, physically and mentally. Two young women search for meaning and hope in the struggle to rebuild their lives amongst the ruins.
訳:1945年、レニングラード。第二次世界大戦で街は荒廃し、建物は取り壊され、市民は肉体的にも精神的にもボロボロになってしまった。2人の若い女性が、廃墟の中で人生を立て直そうと奮闘しながら、意味と希望を探していく。
IMDbより引用

緑を纏うのっぽさんはトラウマの轍を歩む

BEANPOLE(=のっぽさん)と呼ばれる看護婦イーヤは、戦後ソ連・レニングラードで傷ついた者の手当を行なっている。しかし、彼女自身もPTSDを抱えており発作を引き起こすと、声が出なくなり、まるでフリーズしたロボットのように膠着してしまう。不器用な彼女は人生に不自由を感じながらも毎日をなんとか生き延びている状態だ。

そんな彼女は友人マーシャの子パスハの子守をしている最中に発作を引き起こし、パスハを体重で押し潰して殺してしまう。マーシャがレニングラードに帰ってきて、会う顔を持ち合わせていないイーヤだったが、何故かマーシャは子どもがいなかったかのようにパリピのようにフワフワとしている。二重のトラウマを抱えたイーヤをマーシャが癒していくのだ。しかし、マーシャはある日イーヤにこう言う。

「私の子を産んでくれ!」

イーヤはマーシャに想いを寄せていたのに、彼女を抱きながら男と夜の営みをする地獄を体験することとなる…

本作は、『仮面/ペルソナ』のように喪失を埋め合う様子を描いた作品であるが、知恵の輪のように入り組んだ埋め合わせ描写が特徴的な作品だ。美しい緑や赤の衣装の中で強烈な地獄を描く。地獄の中で、マーシャはイーヤのトレードカラーである緑を纏ってみたり、イーヤは反対にマーシャの色である赤を纏ってみたりする。そして、イーヤの物語に思えていた話が段々と、戦争のトラウマをなかったようにする、または他人の人生に転嫁しようとするマーシャの物語へと華麗にシフトしていくのだ。

この年のカンヌ国際映画祭には似たような雰囲気を持つ『燃ゆる女の肖像』が出品された。あちらは、輝ける青春を耽美な色彩に閉じ込めたのに対し、本作はドス黒い地獄を耽美な色彩に閉じ込める。押見修造か!と言いたくなるほど、修羅場修羅場の釣瓶打ちにもかかわらず、その地獄はよく見ないとその正体が分からない。これはトラウマを心の奥に閉じ込め、直視できなくしている人の心理を突いていると言えよう。
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