原油(2008)
Crude Oil
監督:ワン・ビン
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。今年の長尺映画枠に王兵(ワン・ビン)の『死霊魂』がある。本作は、ゴビ沙漠にある夾辺溝、明水に「右派分子」というレッテルを貼られ再教育対象として送られた者の記憶をアーカイヴした8時間にも及ぶ作品で、『鳳鳴 フォン・ミン 中国の記憶』、『無言歌』とゴビ砂漠の記憶を追い続けていった監督の集大成ともいえる。そんな彼の原石ともいえる14時間のドキュメンタリー『原油(Crude Oil)』を観ました。
『原油』概要
Documents a workday at a remote Chinese oil field, from a stolen nap in a break room to the massive drills plunging into the earth.
訳:休憩室で盗まれた仮眠から地球に突入する大規模な訓練まで、遠隔地の中国の油田での就業日を記録します。
※IMDbより引用
撮影期間3日、上映時間14時間で描く王兵から見たこの世の果て
『鉄西区』、『死霊魂』と長尺ドキュメンタリーで有名な王兵が放つ14時間映画。ゴビ砂漠の油田労働者をたった3日の撮影期間で捉えた作品だ。それは、単なるノー編集な手抜き映画なのでは?という考えは杞憂で、原石なりの魅力を放つ作品であった。
第1部の先頭3時間は、休憩室で泥のように眠る労働者を映し出す。全く、彼らの作業は映し出されず、ひたすらに床に寝る疲れた男を収めていく。彼らは、何故ベッドでも椅子の上でもなく、寒そうな床で寝るのか?しっかりした場所で寝る余裕もない、カイジの地下世界よりも劣悪な環境なのかと勘ぐってしまう。かつて、アンディ・ウォーホルが動く絵画、写真たる視点を提示しようと、6時間も寝ている人を収めた『眠り』を発表した。時の流れがある以上、全てが同一な瞬間は存在しないんだという意志を感じる作品だった。あれから45年後、カメラの存在が幽霊になりえる空間で収められた泥のように眠るショットは、動的メディアと静的メディアの狭間にあるものに対する言及から一歩飛び出し、観客へ目の前にある存在に対するイマジネーションを膨らませる演出となっている。冒頭3時間のインパクトは、その後の展開を盛り上げる働きを担っている。
やがて起床した労働者の雑談が始まるのだが労働者たちの会話は面白みがなく、「こっちの方が温かいぞ」とか取り止めもない会話だったりする。これは、我々がまさしく幽霊となり、ゴビ砂漠の果てにある退屈さを追体験する仕組みとなっているように思えてくる。
第2部でようやく外へカメラが出るのだが、ひたすら穴にドリルを入れる労働者を映し出す。ゴビ砂漠にポツンとある油田工場だけに、どこにもいけず退屈な仕事をしないといけない閉塞感に観客を引きづりこみます。
第3部では、ようやく外側の世界から内側の世界への動きを魅せる。会話も、羊を売ったらどうだったとか、賃金が云々、行方不明が云々といった話が活発にされていく。そして第4部のあたま1時間にかけて、彼らの唯一の娯楽であるテレビを楽しむ姿が映し出される。しかし、テレビにカメラは向いておらず、テレビを観る人に注目しているため、何を楽しんでいるかは、フレームの外側にある音で判断するしかない。
第4部では、内側→外側→内側の順にフォーカスが遷移し、だだっ広いゴビ砂漠のコンテナを映したかと思うと、暗闇で作業する人にカメラは向かう。
仕事場の内側、外側を強調した視点で、この世の涯ての労働、カイジよりも無が流れる空間を捉えたドキュメンタリーでした。
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