1917 命をかけた伝令(2019)
1917
監督:サム・メンデス
出演:リチャード・マッデン、ベネディクト・カンバーバッチ、マーク・ストロング、アンドリュー・スコット、コリン・ファースetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第92回アカデミー賞で撮影賞、録音賞、視覚効果賞を受賞した『1917 命をかけた伝令』が昨日より公開されました。本作は、日本における過剰な宣伝でワンカット映画だと思われていたのですが、公開が近くにつれて、「いや、2カットだ」、そもそもワンシーンワンカットで、『バードマン』や『ロープ』のようにショットを巧みに繋ぎ合わせて2カットに見えるだけとドンドン化けの皮が悪い意味で剥がれていって、Twitter上での盛り上がりがトーンダウンしていってしまいました。作風がクリストファー・ノーランの二番煎じ感が漂うこともあり、サム・メンデス好きなブンブンでもテンション低めで劇場に向かったのですがIMAXで観たせいもあるのか、とても楽しめました。そして、このワンカット風な映像よりも、カメラの向いている視線に着目してほしいと思う作品でした。
『1917 命をかけた伝令』あらすじ
「007 スペクター」「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」などで知られる名匠サム・メンデスが、第1次世界大戦を舞台に描く戦争ドラマ。若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクの2人が、兄を含めた最前線にいる仲間1600人の命を救うべく、重要な命令を一刻も早く伝達するため、さまざまな危険が待ち受ける敵陣に身を投じて駆け抜けていく姿を、全編ワンカット撮影で描いた。1917年4月、フランスの西部戦線では防衛線を挟んでドイツ軍と連合国軍のにらみ合いが続き、消耗戦を繰り返していた。そんな中、若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクは、撤退したドイツ軍を追撃中のマッケンジー大佐の部隊に重要なメッセージを届ける任務を与えられる。戦場を駆け抜ける2人の英国兵をジョージ・マッケイ、ディーン・チャールズ=チャップマンという若手俳優が演じ、その周囲をベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロングらイギリスを代表する実力派が固めた。撮影は、「007 スペクター」でもメンデス監督とタッグを組んだ名手ロジャー・ディーキンス。第92回アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む10部門でノミネートされ撮影賞、録音賞、視覚効果賞を受賞した。
※映画.comより引用
カメラの視線から見る恐怖と臨場感
草原で、束の間の休息を取るスコフィールド上等兵、ブレイク上等兵。彼らが起きるところから始まる。本作は、余計な挿話を排除し、彼らが起きてから寝るまで、手紙を受け取ってからターゲットに渡すまでの直線ルートに注力して進行されていく。彼らが会議室で手紙をマッケンジー大佐に渡し、作戦を中止にするミッションを与えられてから、彼らの地獄旅が始まる。思いの外地獄のような戦闘シーンは数カ所しかなく、それ以外は無人の空間を突き進んでいるだけなのだが観る者を惹きつける恐怖が押し寄せてきて、全く飽きることがない。その興奮はどこからくるのだろうか?その答えは、カメラワークにあるだろう。『1917』におけるカメラワークは、基本的に役者の顔を映しながら後ろ向きに動いていく。つまり、スコフィールド上等兵、ブレイク上等兵の目線の先に何があるのか全くわからない状態で映画は進んで行くのだ。例え、彼らの背後にカメラがついたとしても、彼らが観ている方向がカメラからは死角となっていて、果たしてそこに何があるのかがわからない。目の前にいる人が見えているのに、自分は見えていないという状況から来る見たい欲望と得体の知れない恐怖がスパイスとなって、本作に対する好奇心を持続させているのだと言えます。
また、サム・メンデスやロジャー・ディーキンスは《メタルギアソリッド》や《コール オブ デューティ》といった戦争アクションゲームで描かれる視覚構造を巧みに映画に盛り込んでいると思われる。例えば、暗闇の廃墟でスコフィールド上等兵が敵兵の首根っ子を押さえる。すると奥から、「誰だ!」と敵兵が近づいて来る。そして、スコフィールドが敵に体当たりして、「敵襲だ!」と激しいアクションが始まる場面は、《メタルギアソリッド》で度々観られる光景である。また、荒野にポツンとある廃墟に敵がいるかどうか見回る場面での動き方は、《コール オブ デューティ》、《PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS》、《Escape from Tarkov》などといったFPS視点の戦争アクションゲームでの動き方と類似する。
そして擬似ワンカット映像における映像の切れ目は、ゲームにおけるセーブポイントを意味しているようで、実写版RTA(ゲームスタートからクリアまでの最短時間を求める競技)と言えよう。さて、本作における擬似ワンカットにも目を向けてみよう。本作は擬似ワンカットにすることで、改めて監督の手腕の高さを証明したと言える。『1917』で流れる時間は、実際には1日だったりするのですが、家の壁や窓の内側から外側に出る動き、暗闇を巧妙に映すことで時間的省略をシームレスに行なっている。よくよく観察しないと、廃墟の家に味方の兵士が沢山集まっているのに気づかないスコフィールド上等兵という構図の違和感に気づけないレベルにまで自然な時間的省略となっている。折角なので、ブレイク上等兵死亡後に現れる味方部隊について語っておこう。隊長が、トラックに乗るぞ!とスコフィールドを誘導する。一旦彼らは家の中に入るのだが、カメラは何故か家の壁を横移動する。そこには、休憩中の兵士がいて、彼らを映しながら、スコフィールドが家から出てくる瞬間を捉える。これこそが時間省略の鋭い演出といえ、家の中で話し合われたであろう会話や束の間の休憩といった時間をカットすることに成功している。あくまで映像体験に力点を置いているので、蛇足な描写を省く為に、カメラは場外に留まらせているのです。
確かに、本作は擬似ワンカットからくるライブ感に力点を置きすぎて、何故第一次世界大戦を描かなくてはいけないのか?といった意味が感じにくい(実話を基にしているとはいえ、やはり第一次世界大戦である意味は感じたいところ)作品になっていたり、ストーリーがシンプルすぎて物語重視の人からすると退屈、何故アカデミー賞脚本賞にノミネートされたんだ?と思ってしまう作品ではありますが、それでも2時間職人の業を堪能できて楽しかった。寧ろ、これこそ映画館で観ないでどうする?IMAXで観ないでどうする?と言いたい作品でありました。
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