タイムシェア(2019)
Tiempo compartido
監督:セバスティアン・ホフマン
出演:ルイス・ヘラルド・メンデス、ミゲル・ロダルテ、RJ・ミッテetc
評価:75点
さて、セバスチャン・ホフマンである。先日、鑑賞したゾンビ映画『ハレー』があまりにも傑作だったのでホフマン監督のキャリアを調べたら、昨年『Tiempo compartido』を作りサンダンス映画祭で審査員賞を受賞していたとのこと。
米国iTunesになくて落胆していたのですが、灯台下暗し、Netflixで『タイムシェア』という邦題で配信されていました。
『タイムシェア』あらすじ
夫そして父であるペドロは、南国リゾートで次々に起こるハプニングに疑惑を抱き始める。せっかくの家族休暇は、不吉な計画の犠牲になってしまうのか?
※Netflixサイトより引用
時間を共有しない旅における幻影
ホフマン監督は、どうやら2010年代最後の胸糞映画作家として名乗りをあげたようだ。2010年代は、アレックス・ロス・ペリー、ヨルゴス・ランティモス、リューベン・オストルンドといった胸糞映画監督のニューフェイスが次々と名乗りをあげていった。そこにランティモス系不条理劇のタッチでホフマン監督は斬り込んできたのだ。
バカンスでリゾートホテルへやってきた家族が、ゴミのような接客、そしてどこへ行こうにもいるウザい隣人に振り回されて大黒柱の父親が幻滅憤りを感じる様子を描いた作品だ。それだけ聞けば、よくある不条理劇のように見える。
しかしながら、そこに見え隠れするのは現代人の旅行の在り方だ。
「旅行」と聞いてあなたは何を思い浮かべるであろうか?
人が旅する本質は「普段とは違った体験ができる」に尽きるでしょう。
ただ、「普段とは違った体験ができる」を突き詰めれば、コントロールできない不条理に身を投げ出すことだ。予測不能の一期一会によって自分の心が豊かになる。しかし、仕事が忙しくなり、貧富の格差が広がり、全世界総ブラック企業時代になった今、不条理を毎日浴びていることへの逃避という側面が備わってしまい、旅行をコントロールし、都合良い変化=不条理を求めようとしているようになった。現に今や旅行すれば、人々はスマホで眼前の景色を撮り、SNSにアップしがちである。それを可能にするために、ドローンや自撮り棒、写真加工のアプリや、それに特化したSNSが登場している。『TOURISM』という作品では、海外旅行に行って一見異文化交流しているように見えるが、実は異国と自分との間に高い壁があったことをスマホの消失に象徴させて描いていた。
さて、話を戻そう。『タイムシェア』はタイトルにもある通り、旅による一期一会の時を目の前の人と共有してなんぼという旅行の醍醐味を忘れてしまった者のフラストレーションを風刺している。
旅の一期一会の醍醐味は、浅く接することにより異世界をやんわり自分に取り込むことなのに、専門家でもないのに余計なところを深くまで掘ってさらなるフラストレーションを高めてしまう様まで描いている。
これは旅の哲学を見事に分析してみせた作品といえよう。
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