【後半ネタバレ注意】『ルパン三世 THE FIRST』納期に間に合わせる男・山崎貴の本気

ルパン三世 THE FIRST(2019)

監督:山崎貴
出演:栗田貫一、小林清志、浪川大輔、沢城みゆき、山寺宏一、広瀬すず、藤原竜也etc

評価:75点

こんにちは、チェ・ブンブンです。

今年の山崎貴は『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』、『アルキメデスの大戦』、そして『ルパン三世 THE FIRST』とビッグ案件を抱えまくっています。山崎貴といえばクレヨンしんちゃん、ドラえもんに泥を塗った男として悪名高く、映画ファンの間ではサンドバッグとして毎回ボロクソに貶される監督である。しかしながら、そんな彼による映画ファンに対する復讐である『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』。栄光ある職に就きながら苦しむ様を暗号のように隠した『アルキメデスの大戦』を観てから、どうも山崎貴が可哀想に思えてきた。と同時に、日本の大作監督特有の苦悩をどのように評価するのかといった問題にぶちあたった。彼は、好きであんなにも歪な作品を作り続けているわけではない。

それはインタビューで語っているように、タイトルになんでも英語を使うスタイルや、『ドラゴンクエスト』の企画を何度か断っていることから伺える。彼はサラリーマン監督、中間管理職監督なのだ。白羽の矢が立ってしまった以上、決められた納期に間に合わせないといけない。大手企業による軽いノリの謳い文句や宣伝、勝手にあてがわれたであろうキャスティング、そしてピクサーと比べると不気味の谷を抜け出せていない白組の技術力。そういったものを交通整理させながら納期に間に合わせるのだ。そして彼は、3つの案件を抱え死にそうになりながらもなんとか公開に漕ぎ着けた。最近、現場監督職に昇進し、こういった交通整理を日常業務で行なっているので、山崎貴の大変さを身に染みて感じるのです。さて御託はさておき、観ましたよ『ルパン三世 THE FIRST』。英語に直した途端アホ臭く見えてしまうタイトルですが、これがそういったバックグラウンド横に置いても面白かった。というわけで語っていきます。尚、終盤の残念なポイントについて語る場面でネタバレしてしまっているので要注意。

『ルパン三世 THE FIRST』あらすじ


モンキー・パンチ原作による国民的アニメ「ルパン三世」を初めて3DCGアニメーション化して描いた劇場版。「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズなどVFXを駆使したヒット作を数々生み出し、「STAND BY ME ドラえもん」「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」など3DCGアニメも多数手がけてきた山崎貴が監督・脚本を担当し、ルパン一世が唯一盗むことに失敗したという伝説のお宝「ブレッソンダイアリー」に挑むルパン一味の活躍を描く。20世紀最高の考古学者ブレッソンが遺した最大の謎・ブレッソンダイアリー。その謎を解き明かした者は莫大な富を手に入れることができるとされ、第2次世界大戦時にはナチスもその行方を追い求めたという。ルパンの祖父であるルパン一世でさえ盗み出すことに失敗した、史上最高難度の秘宝を手に入れるべく奔走するルパンたちだったが……。
映画.comより引用

不気味の谷とルパンのコミカルさがブラックホールを発生させ…

山崎貴ないし、白組のアニメーションって気持ち悪く思いませんか?

ブンブンはドラえもんの時から、生理的拒絶反応がありました。ピクサーと同じ3DCGアニメなのに、どうしてこうも気持ち悪いのか?その正体は《不気味の谷》にある。不気味の谷とは、アンドロイドなど人間に寄せて作っているのだが、そこにある違和感が生理的拒絶を生み出す現象である。ピクサーアニメーションでは、そういった不気味の谷を超えたところで映画が作られるのですが、どうも山崎貴のアニメーションは不気味の谷を毎回超えられていなくて、どことなく気持ち悪さを感じるのです。

しかしながら、本作は妙にその気持ち悪さが心地よく感じました。というのも、ルパン三世というコンテンツとの相性がよかったせいだと言えよう。ルパン三世といえば、和洋折衷の世界観が巧みに調和しあい、ロジャー・ムーアボンドばりにコミカル飄々と物語を進める。その軽快さから、ある程度のむちゃくちゃさや違和感が許されてしまうのだ。「泥棒は嫌々やるもんじゃないぜ」というように、宮崎駿、鈴木清順、坪島孝が個性的なルパン三世映画を作ってきた。また2014年に登場した《不気味の谷》全開な実写版『ルパン三世』もあったことから、今回は山崎貴の癖が抜けたのではないだろうか。

ただ、それだけならこうも楽しくはならない。本作はルパンの持つコミカルさを引き出す、面白いギミックが沢山仕込まれていたのです。冒頭、ブレッソンダイアリーを巡る攻防は、レティシア、ルパン、銭形、峰不二子の四巴に及ぶ争奪戦へと発展する。屋内から屋外、屋根から屋根、上から下へと空間を十分に活かしたアクションが展開されていく。そのむちゃくちゃながら自由で尚且つ『ファントマ』シリーズから続くフレンチ怪盗コメディの風を纏わせていくところに思わず唸らされる。

そして、往年の映画の映える場面を次々と取り込みつつ、アニメならでは、ルパンならではの動きを積極的に取り入れ、その組み合わせからくる驚きと興奮が没入感を与えます。例えば、荒野に降り立つルパン一味を追跡し、追い回す飛行機のシークエンスはヒッチコック『北北西に進路を取れ』を意識した空間の使い方をする一方、電話一つでとある人物を召喚する御都合主義はルパンさながら、アニメだから許される無茶苦茶さに舵を切る。ブレッソンダイアリーの時限装置が作動する場面では、実写映画ではおもちゃ感が出てしまうであろう、ギミックに日本の実写映画では作り出せないリアリティを持たせることに成功している。

そして、何と言ってもルパンの身体的柔らかさに石川五ェ門の斬鉄剣による居合い、次元大介のスカしながらぶっ放す銃捌きに峰不二子の色攻撃、銭形警部の人間味あふれる狂言回しが段々と一つになって、悪を倒すために一つになるプロセスが非常に美しい。カメラがパンをすると、ポスターになりそうな決めポーズで立っており、各々の技能をフル活用し、それもギャグを良いながら楽しそうに修羅場を切り抜けていっている。本作のテーマは「泥棒は嫌々やるもんじゃないぜ」だ。それは、泥棒だけでなく、考古学やルパンを捕まえることなど、自分の好きなこと、自分の仕事をまっすぐにやるということだ。目の前の問題を楽しく攻略しようぜというルパンの精神が、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』とは裏腹に前面に出ている本作はとにかく楽しかった。

ミーハーなルパン好きというのもあるが、魅せるものを余すことなく提示し、そこに広瀬すず演じるレティシアの可憐さ、藤原竜也が好演する悪役の活躍が映画を盛り上げ、ブンブン大満足の出来に仕上がっていました。今回の山崎貴はあたりである。

【ネタバレ】それは映さないで欲しかった

ただ、一点だけ残念だったことがある。多分、これは山崎貴が阻止できなかったことなんだろう。妥協なんだろう。劇中にカップヌードルがプロダクトプレイスメントとして登場するのだ。最近だと『天気の子』が風俗ビジネスのバニラやサントリー、ローソン、Yahooにソフトバンクと企業の広告を所狭しと散りばめ話題となった。これは『トランスフォーマー/ロストエイジ』などハリウッド大作でも問題になっているもので、スポンサーが多すぎると映画の品質に影響するほどに広告が邪魔する現象である。本作は、これらの作品のような激しい広告は盛り込まれていないものの、カップヌードルが鬱陶しい宣伝を劇中でし始めたせいで映画の世界観が台無しになってしまった。

ルパン一味が銭形警部の飛行機を強奪しトンズラする場面。そこで捕まえた彼の前で美味しそうにカップヌードルを温める場面があるのです。別にルパンの世界観なので、当時カップヌードルがあったかとかそういうのはどうでも良い。例え、時代が合ってなくてもそれはファンタジーとして受け流せるからだ。しかし、あれだけ他の企業のコマーシャルなく映画が進んでいたのに、そこだけカップヌードル食べたくなるでしょ?と宣伝されると反吐が出ます。映画と映画の隙間に広告を入れるタイプのサブリミナル効果よりも個人的に悪質だと思う。

Youtubeを観る際に途中で5分間以上に及ぶVtuberの栄養商材CMを魅せられた時のような不快感を感じました。映画はYoutubeとは違いお金を払って観ている。それも1900円以上のお金を払って観ているだけに、幕間の予告以上に広告を魅せられるのはちょっとキツイものがあります。

それがなければ大満足だっただけに結構残念でした。

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