【ネタバレなし】『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』虚栄心を映す《偽》の映画

ディアスキン 鹿革の殺人鬼(2019)
原題:Le daim
英題:Deerskin

監督:カンタン・デュピュー
出演:ジャン・デュジャルダン、アデル・エネル、アルベール・デルピーetc

評価:90点

こんばんは、チェ・ブンブンです。

フランスのクエンティンことカンタン・デュピュー最新作が意外と早く日本にやってきました!日本では『ラバー』、『勤務につけ!』で注目されるものの未だにしっかりした紹介のされ方をしていない鬼才。Filmarksにおける彼の作品のテンションの低さからも御察しの通りかなり癖の強い監督であります。『奇人たちの晩餐会』や『ようこそ、シュティの国へ』といったようにフランスのコメディの型に、不条理ものというのがあります。主人公が、会話すら成立しない混沌の中をサバイバルする、あるいは主人公自らが場の雰囲気をぶち壊しにするといった様子を笑いに包むというもので、観るとフラストレーションが溜まる作品が多いのが特徴です。フランスは議論大国で、学校に通っている時から常にディスカッションをメインとしているため、家族団欒の場でも平気で政治について論争が起こったりする国です。海外では政治や宗教の話をしちゃダメと日本ではよく言われますが、そんなのはフランスにおいて真っ赤な嘘で、フランス人の会話に入りたければ自分の意見をしっかり提示する必要があります。そんな議論も平行線になり混沌としがちなフランスの国民性を俯瞰して見る視点が面白いのか、定期的に製作されてヒットを飛ばしています。

その流れに一石を投じた監督の一人がまさしくカンタン・デュピューであります。彼はハウスミュージックのDJとして活躍していたのだが、2000年代からは映画製作に興味を持ち2010年に発表したタイヤが人を襲うホラー映画『ラバー』で一躍注目される。彼はフランス人が好きな不条理ブラックコメディとZ級映画的チープさを織り交ぜ、そこから観たこともないような不条理を紡ぎだすことを得意としています。カイエ・デュ・シネマがその作家性を評価しており、基本的に星4以上を与えています。本作も当然ながら賞賛しており、従来の作品から一皮剥けていると語っています。

そんな本作をシネマート新宿で開催されている《のむこれ3》で観てきました。

『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』あらすじ


「アーティスト」のジャン・デュジャルダンが主演を務め、鹿革ジャケットに異常なほどの愛情を持つ殺人鬼が巻き起こす惨劇を描いたフランス製スリラー。憧れの鹿革ジャケットを手に入れたジョルジュ。フリンジのついたカウボーイ風のジャケットは完璧で、それを着た自分は非の打ち所がないほど美しい。その異常なまでの鹿革への愛情は、やがて自分以外でジャケットを着る者への憎悪へと変わっていく。ビデオカメラを片手に街へ繰り出したジョルジュは、“死のジャケット狩り”を開始する。共演に「午後8時の訪問者」のアデル・エネル、「ニューヨーク、恋人たちの2日間」のアルベール・デルピー。「ラバー」のカンタン・デュピューがメガホンをとった。「のむコレ3」(2019年11月15日~/東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋)上映作品。
映画.comより引用

虚栄心を映す《偽》の映画

男ひとり、フランスの田舎町にやってくる。彼は鹿革に取り憑かれており、100%鹿革のダサいジャケットを80万円くらい現金叩きつけてご購入。彼は目立ちたがり屋で、誰かに鹿革を褒めて貰いたいのだが、自分から言わないと誰も構ってくれない。彼の見栄っ張りは増幅され、遂にはジャケットが語り始めるのだ。

「俺は世界で唯一人に着られるジャケットになりたい」

男は「俺も千年に一人ジャケットを着る男になる」と答え、行く人行く人を殺してジャケットを奪うようになる。

本作はZ級映画のしょうもなさの中に「人にどうみられたいか」という欲望とそれによって生じる虚栄心からくる虚言のメカニズムをコミカルに引き出す思わぬ傑作である。

彼は《編集》という言葉も知らないのに、「俺は映画制作者だ。スタッフは今シベリアで大事なシーンを撮っているから、俺一人で頑張っている。」と平気で嘘をつき、女から金を搾取していく。しかし、そんなことをしても彼に対する理想の視線は手に入らない。それを不気味な少年の目に象徴させている。

彼の作るゴミ同然の映画、いや偽の映画は彼の内面にあるハリボテを重層的に描くのに過不足ない舞台装置として機能していた。

また、あまりに滑稽で不気味な100%鹿革全身コーデは本作に敷かれた理屈っぽい話を楽しく笑い飛ばしてくれた。

ハイセンス過ぎるこのブラックコメディ侮るなかれ!

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