『フェアウェル/The Farewell』A24、対アカデミー賞の切り札/貼られたアイデンティティを貼り直すまで

フェアウェル(2019)
The Farewell

監督:ルル・ワン
出演:オークワフィナ、ツィ・マー、ジム・リューetc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

この時期、アメリカではアカデミー賞に向け、各映画会社が推しの映画を公開or宣伝していく時期である。『ムーンライト』でアカデミー賞作品賞を獲ってから、失速することなく傑作、珍作を発表し続けるインディーズ映画の親猿A24の2019年は切り札多めだ。美しいスウェーデンの情景の中で繰り広げられる戦慄を描いた『ミッドサマー』、凝りに凝った撮影、演出で作られたアート映画『The Lighthouse』、サンフランシスコのジェントリフィケーションと黒人の苦悩を織り交ぜた作品『The Last Black Man in San Francisco』など、上半期から大渋滞であった。しかし、ここにきて大きな切り札が現れ、前哨戦一発目のゴッサム・アワードでA24が提出したことからアカデミー賞作品賞ノミネートが囁かれる作品がある。それが『The Farewell』だ。

A24が注目した中国の監督ルル・ワンが、自分の思い出を映画にした作品。主演を『クレイジー・リッチ!』のオークワフィナにすることで、昨年ヒットをするものの全くアカデミー賞に絡む事のできなかった『クレイジー・リッチ!』を超えようとする気概を感じさせる作品である。これが、『オクラを買いにいかせたら』、『ブルックリン』、『バンコクナイツ』に次いで、2010年代最重要の移民の心理を描いた作品でありました。

『The Farewell』あらすじ


A Chinese family discovers their grandmother has only a short while left to live and decide to keep her in the dark, scheduling a wedding to gather before she dies.
訳:中国人の家族は、祖母が残りわずかな時間しか残っていないことを発見し、彼女を暗くして、死ぬ前に集まる結婚式を予定することにしました。
IMDBより引用

貼られたアイデンティティを貼り直すまで

余命3ヶ月の祖母を囲って最期に楽しい日々を過ごそうと、従兄弟と日本人アイコ(『パッチギ!』でモブキャラとして出演していたらしいミズハラ・アオイが演じる)との結婚式名目で家族が中国に集まることとなる。幼い頃に親と共にアメリカへ渡ったビリーは、家族が祖母に余命のことを隠そうとするのに猛反発する。そんな彼女と祖母の最期の日々を描くという作品。そう聞くと、非常に個人的な物語に見える。しかしながら、ルル・ワンは冷静沈着に、素朴な日々を通じてアイデンティティを自ら選択するその瞬間を描いていくのだ。それも、映画的脚本によって。

本作は、クドいような反復が肝となっている。

中国にたどり着いたビリーは、親戚と閑散とした町を歩きながら会話する。親戚は、「絶対に言うなよ」と言い、彼女は「わかってる」と答える。それを延々と一本道の端まで繰り返すのです。通常の会話であれば、途中でブチ切れるであろう。また、ホテルに彼女が着くと、いきなり「ぶっちゃけ、アメリカと中国どっちが良いんだ?」と訊かれる。彼女は、「どっちも違いがある(だからどっちが良いなんて言えっこない)」と語るのだが、これもクドいように何度も訊かれるのだ。

これは、ビリーが自分の心の中で中国人としての自分とアメリカ人としての自分の間に揺れ動き、自問自答する様を象徴させている場面だと言える。結局、幼い頃にアメリカへ渡ったので、中国文化は完全に異文化として彼女にある。かといって移民の国と言われるアメリカでは、アメリカ人というより、中国人としてのアイデンティティがある。その中途半端なラベルは、彼女が自分の手で貼ったのではなく、親によって貼られたのです。彼女は、中国で祖母の優しい顔をみたり、円卓を囲って会話をしたり、結婚式のどんちゃん騒ぎ、騒動を通過していくことで、自らアイデンティティを貼り直すのだ。

こういった話は『オクラを買いにいかせたら』や『ブルックリン』でも描かれていたが、どちらも国籍という大きなラベルを前面に押し出していた。それに対して、本作はできるだけ国籍とか人種というのを透明にしている。周囲は国籍や人種を重要としているのだが、彼女はそこよりも深い次元にある「自分とは何か?」を見出そうとしている。それを、自然な表情、現実的な立ち振る舞いで表現してみせるオークワフィナの繊細な演技はアカデミー賞ノミネート堅いと感じました。

恐らく技術賞を確実に獲るなら、『ミッドサマー』を推すだろう。しかし、A24は常に全力全開、攻めの姿勢で『The Farewell』を推すことでしょう。アカデミー賞作品賞、脚本賞、主演女優賞ノミネートは堅い作品と言えます。日本配給が決まったそうなので、来年公開されるときには是非チェックしてみてください!

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