【ネタバレ考察】『The Dead Don’t Die』とっちらかったストーリーにジャームッシュが隠したゾンビ哲学とは?

ザ・デッド・ドント・ダイ(2019)
The Dead Don’t Die

監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、ティルダ・スウィントン、クロエ・セヴィニー、スティーヴ・ブシェミ、ダニー・グローヴァー、イギー・ポップ、セレーナ・ゴメス、RZA etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にうっかり出品されてしまった、ジム・ジャームッシュのゾンビ映画は言わば同窓会映画だ。彼の映画の常連が、各々にワイワイガヤガヤとゾンビワールドを徘徊する作品はそもそもパルムドールを鼻から狙っていなかった。しかし、カンヌという大舞台で、しかもオープニング作品として目立ってしまった本作は、あまりでシュールでやる気がない物語に賛否が真っ二つに割れてしまった。実際にみて観ると、ゾンビ映画、ホラー映画ファンはあまりのゆるさに衝撃を受けることでしょう。そして映画評論家は、ことごとく群像劇として大切なアンサンブルや伏線を放置していくスタイルと、ラストに開いた口が塞がらないでしょう。

これは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のように9割型監督の趣味全開な駄話に終わってしまっているのだろうか?いいえ、タランティーノの同窓会映画もそうだが、監督の哲学が所狭しと並べられた理論の映画であった。ここではネタバレありで、本作に隠されたものをWebマガジンVALTUREのジャームッシュのインタビュー記事《Jim Jarmusch Believes in the Teens, But Not Joe Biden》を基に考察していく。

【ネタバレなし】『The Dead Don’t Die/ザ・デッド・ドント・ダイ』ジャームッシュの同窓会

『The Dead Don’t Die』あらすじ


アメリカの田舎町センターヴィル。3人だけの警察署で働くロバートソン保安官(ビル・マーレイ)とピーターソン保安官代理(アダム・ドライバー)は、いつもの他愛のない住人のトラブルの対応に追われていたが、突如、街にゾンビが出現しだし、思わぬ事態に巻き込まれていく・・・。
映画.comより引用

ゾンビはモンスターだが、ゴジラではありません。

本作は、ジョージ・A・ロメロの社会風刺入りゾンビ映画に愛を捧げた作品である。ジム・ジャームッシュといえば『ストレンジャー・ザン・パラダイス』や最近だと『パターソン』のように、アート系会話劇のイメージが強いが、彼はジャンル映画にも強い興味を抱いておりジョニー・デップ主演の西部劇『デッドマン』や吸血鬼映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』、さらにはフォレスト・ウィテカーに刀を持たせる『ゴースト・ドッグ』といった珍品を撮っている。しかし、どれもジャームッシュの美学によってジャンルの垣根が薄くなる不思議な世界が観客を覗き込む。
そんな彼はインタビューの中で『ウォーキング・デッド』や『新 感染 ファイナル・エクスプレス』を《悪いゾンビ映画》と評価し、『The Dead Don’t Die』ではゾンビ映画の祖先である『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の続編を想定したラブコールとなった。そしてゾンビのゆっくりと迫り来る様子に、本来あるべき恐怖の姿を投影させ、ロメロが一貫して描く社会風刺としてのゾンビ映画像を引き継いだ。また、ゾンビ発生の原因が地球の自転の変化により宇宙からの放射線が死者を蘇らせるというもので、どこか『ゾンビ 日本劇場公開版』における惑星爆発による謎の光線が死者を蘇らせるという展開に通じるものがある。

ジャームッシュはインタビューで次のように語っている。


The zombies are monsters, but they’re not Godzilla. They don’t come from outside the social order. They come from within a collapsing social order. They’re us, or any of us who have died, so they are also victims because they don’t choose to be undead. It’s because of some stupid shit humans did that caused them to become undead.
訳:ゾンビはモンスターではあるが、ゴジラではありません。彼らは社会秩序の外から来ません。崩壊しつつある社会秩序の内側から来るのです。彼らは我々であり、または死に絶えた我々なのです。彼らは生ける屍になることを選択しないため、犠牲者でもあります。愚かでゴミな人類がそうしたので、彼らは生ける屍になったのです。

ゴジラの場合、ゴジラと人類の間に隔たりがあるが、ゾンビの場合ゾンビと人間は同じ空間を共有し、段々と毒されていく。その差異を彼は言及し、その内側から崩壊していく様を『ツイン・ピークス The Return』譲りのゆっくりとしたシュールなユーモアで笑い飛ばしている。

スターギル・シンプソンの主題歌

本作はスターギル・シンプソン書き下ろしの曲『The Dead Don’t Die』が使われており、アダム・ドライバー演じるロバートソン警部がパトカーの中でよく聴いている。

Oh, the dead don’t die
Any more than you or I
They’re just ghosts inside a dream
Of a life that we don’t own
They walk around sometimes
Never payin’ any mind
To the silly lives we lead
Or the reaping we’ve all sown

訳:
ああ、死者は死なないんだぜ
あんたや俺なんかよりさ
ヤツらは夢の中のただの幽霊なのさ
俺らが持っちゃいない生き様の
ヤツらは時々彷徨うのさ
気を配ったりなんかしないさ
愚かな生き様に向かって、導かれて
なんなら、身包み剥がされるのさ

この歌詞は、ゾンビが生前の記憶に従い彷徨う姿を投影している。キャンディを求め雑貨屋に足を運ぶキッズゾンビに、Siriに語りかけるゾンビ、夜な夜なゾンビは町を埋め尽くしていく。そんな様子を描写している一方、これはロメロ的社会風刺をも織り込んだものとなっている。劇中で何度もこの曲を流すことにより、ジャームッシュ色に染まったゾンビ映画にロメロの花が根ざすこととなる。

絶望、そして無関心

ジャームッシュはスティーヴ・ブシェミにとあるメッセージを託した。彼の帽子には“Keep America White Again.(アメリカを再び白く保つ)”と書かれている。これは米民主党のナンシー・ペロシがドナルド・トランプに対して”Making America white again.(アメリカを再び白くする)”目標を持っているのではと非難したことを反映している。人種を分断する差別であるのだが、それは声高らかに語られることなく、静かに横たわっているのだ。

この暗号から読み解いていくと、『The Dead Don’t Die』はジャームッシュがゾンビの仮面でもって現代の個人主義を皮肉っている作品だということが分かってくる。かつて、世界は一つになろうとした。ヨーロッパでは多くの国で通貨がユーロに統一され、国と国の移動は容易になった。しかし、その時代は2010年代末には失われてしまった。アメリカでは、ドナルド・トランプ政権が誕生し、アメリカ経済に無関係な争い事は避けるようになった。ヨーロッパでは移民を押し付け合う過程の中で、イギリスがEU離脱騒動を引き起こした。またデンマークでは積極的な移民廃絶運動が行われた。世界が個人の利益を優先し、他との干渉を回避しようとする個人主義/他への無関心が蔓延するようになった。

これが『The Dead Don’t Die』では全く絡むことのない群像劇に反映されている。本来であれば、ロバートソン警部やガソリンスタンドのウィギンズ(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は、訪問者ゾエ(セレーナ・ゴメス)を助けにいき、ゾンビとの戦いが起きるはずだ。何故ならば、伏線として恋心を抱かせる場面を用意しているから。しかしながら、警部がモーテルに到着するとゾエ一味は全員息絶えていた。ウィギンズに関しては、ガソリンスタンドで籠城戦の末ゾンビ軍団に敗北してしまうのだ。登場人物が各々、あれよあれよと言う間にゆっくりと蠢くゾンビたちに取り囲まれ、捕食されてしまう様を乱雑に並べていくのだ。

ここで重要となってくるのが、ティルダ・スウィントン演じる葬儀屋の刀使いだ。彼女は、葬儀屋に設けられた修行部屋で刀の修行をする。映画の世界観が壊れてしまうぐらいの違和感は最後までビル・マーレイサイドに1mm足りとも歩み寄ることなく続く。彼女はゾンビが徘徊している中に、ぬぅと現れ、自らの回転斬りを魅せつける。そして、ゾンビと対話し始める。どういうことだろうか、終いにはUFOを呼び寄せ、無数のゾンビが見守る中地球に降り立ったソレに乗り込みおさらばしてしまうのだ。

これは、異様過ぎる他者である刀使いにすら興味持てず、積極的な接触すら拒み、ようやく訪れた大きな変化をもって初めて感情が動かされるという場面とようやくすることができる。そして、それは冒頭に設置された、ゾンビに殺されたダイナーの主人を見て、「動物のせいだ」と非現実ではあるが薄っすら横に見えている現実から目を逸らす描写が100分かけて熟成された結果を表す。

ジャームッシュは、暗い世の中に絶望し、社会にある問題と向き合うことを諦めてしまった現代に釘を刺したのだ。それでいいのか?非現実的でも、事態を打開する方法はあるし、早めに問題と向き合えば事態から抜け出せると。だからこそ、一見無駄のように見えるUFOは《希望》を象徴する重要なシーンだと言えます。

彼は本作の資金繰りに苦労した。そして、デヴィッド・リンチやテリー・ギリアムに十分出資しない映画業界を憂いた。そんな彼の描く《厭世》は、《希望》に満ち溢れていた。確かに、彼のマスターピースではないが、2019年、いや2019年代最重要の作品と言えよう。

おまけ:ジャームッシュのお気に入り

ジャームッシュはインタビューの中で最近観た中で次の作品が好きだと語っていました。

・『ROMA/ローマ
・『女王陛下のお気に入り
・『永遠の門 ゴッホの見た未来
・『ハイ・ライフ
・『万引き家族
・『ブラック・クランズマン
・『スターリンの葬送狂騒曲
・『Minding the Gap』
・『ツイン・ピークス The Return

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