『引っ越し大名!』ブラック企業すぎる藩の策略に涙が出る

引っ越し大名!(2019)

監督:犬童一心
出演:星野源、高橋一生、高畑充希、小澤征悦etc

評価:90点

『雨あがる』あたりから始まった2000年代の時代劇の流行は、ギリシヤ悲劇あるいはシェイクスピアを思わせる重くシリアスなものだった。殺陣は極力減らしラストバトルに全力投球させカタルシスを生む。『たそがれ清兵衛』『武士の一分』『必死剣 鳥刺し』がそれに該当した。

しかしながら、古臭い、つまらないと思われたのか大衆の時代劇離れが起きてしまった。2010年代、松竹はある発明で時代劇を再びポピュラーなものへと押し上げた。それは喜劇である。喜劇は喜劇でも従来の時代劇が分かりにくかった、現実社会と繋がる接点を存分に盛り込んだ喜劇である。つまるところ、日本的組織の無茶振りに対する苦肉の策を描くことでシンパシーを増幅させたのです。

『超高速!参勤交代』の成功により味をしめた松竹は、続編を作り、さらには『殿、利息でござる!』を作りそのジャンルをものとした。その集大成が『引っ越し大名!』である。

初日から満席が続いているという本作を観てきました。これが想像以上の大傑作でありました。

『引っ越し大名!』あらすじ


「超高速!参勤交代」シリーズを手がけた土橋章宏の時代小説「引っ越し大名三千里」を、星野源主演、高橋一生、高畑充希の共演、「のぼうの城」の犬童一心監督のメガホンで映画化。姫路藩書庫番の片桐春之介は人と接するのが苦手で、いつも書庫にこもり書物にあたっていた。幕府から豊後(大分県)の日田への国替を言い渡された藩主の松平直矩は、度重なる国替からの借金と、これまでにない遠方への引越し、さらに減棒と、国の存亡が危うくなるほどのピンチに頭をかかえていた。この国難を乗り切れるかは、国替えを仕切る引っ越し奉行の腕にかかっていたが、前任者は激務が原因ですでに亡くなり、国替のノウハウも失われていた。そんな中で、書物好きなら博識だろうという理由から、春之介が引っ越し奉行に任命されてしまう。星野が春之介役を演じ、春之介の幼なじみで武芸の達人である鷹村源右衛門役を高橋、前任の引っ越し奉行の娘・於蘭役を高畑が演じる。
映画.comより引用

ブラック企業すぎて涙が!

そして、これが東京五輪を控えようとする日本そのものであり、試しに自分の所属する組織や業界に置き換えると爽やかなタッチながらどす黒い笑いに満ち溢れた世界観に涙が出ることでしょう。

話は、弱小藩が別の藩への引越しを命じられるところから始まる。前任者は他界してしまい、トップは白羽の矢を放つのだが、上役は華麗に矢を避け、遂には全く関係ない引きこもり書庫番に当たる。そして、「あとはよろしく」と頼まれるのだ。

エンジニアに例えると、プログラミングなにそれおいしいの?C言語?ビタミンCですか?といっているような人に仕様書なしで保守を任せる有様だ。

そして、極限状態の書庫番は長期的に見れば危険すぎる愚行を苦肉の策ながらやってのける。

貴重な資料は頭に叩き込み燃やす、リストラ、レイオフ上等、精神論で周りを鼓舞する。言うこと聞かなければ権力をチラつかせる。そして、貧弱な武器や物資をありがたがるよう洗脳する。日本の企業あるあるばかりだ。そして、このジャパニーズオデュッセイアの涯てに成長する星野源は、まるでブラック企業を生き抜いて黒いマインドに支配されていくようでこれまた腹を抱えました。ブラック企業も真っ青な悪魔っぷりに抱腹絶倒でした。

これは単に星野源だからヒットしているのではなく、面白いからだ、日本の哀愁を完璧に汲み取っているから大衆にヒットしていると言えよう。

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