『ダンスウィズミー』ミュージカル嫌いあるあるを逆手にとった快作!

ダンスウィズミー(2019)

監督:矢口史靖
出演:三吉彩花、やしろ優、ムロツヨシetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨日、矢口史靖監督作『ダンスウィズミー』を観てきました。予告編を見る限り、結構寒くてダサいミュージカルに見えるし、試写会での評判は悪かったと聞く。しかしながらそんな不安は杞憂!日本で一番大衆娯楽とシネフィル唸る技術とのバランスが取れた矢口史靖監督のことだけあって全く問題ありませんでした。

『ダンスウィズミー』あらすじ


「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」の矢口史靖が監督・脚本を手がけたミュージカルコメディ。一流商社で働く勝ち組OLで、幼いころの苦い思い出からミュージカルを毛嫌いする鈴木静香は、ある日、姪っ子と訪れた遊園地で怪しげな催眠術師のショーを見学し、そこで「曲が流れると歌って踊らずにいられない」という“ミュージカルスターの催眠術”にかかってしまう。その日から、静香は街中に流れるちょっとしたメロディや携帯の着信音など、あらゆる音楽に反応するように。術を解いてもらおうと再び催眠術師のもとを訪れた静香だったが、そこは既にもぬけの殻。困り果てた彼女は、催眠術師の助手をしていた千絵とともに、催眠術師の行方を捜すが……。「グッモーエビアン!」の三吉彩花が主演を務め、ミュージカルシーンの全ての歌とダンスを吹き替えなしで演じる。共演には、お笑い芸人のやしろ優、シンガーソングライターでモデルのchay、「怒り」の三浦貴大、「銀魂」のムロツヨシ、ベテラン俳優の宝田明ら個性豊かなキャストが集結。
映画.comより引用

ミュージカル嫌いあるあるを逆手にとった快作!

本作は、一見ノーテンキで古臭いミュージカルに見えるが、実は非常に高度なことをやっている。

物語のベースはジム・キャリーが嘘のつけない弁護士になってしまい、その呪いを解こうと奮闘するコメディ『ライアー ライアー』。そして、その呪いを解こうとする物語をロードムービーとして描く。そうです、実はミュージカル映画ではないのです。それが重要な鍵となっている。

まずこの映画は三吉彩花演じる成功したOLに「ミュージカルなんてクソだ、なんで会話の途中に歌い出すの?わかんない。」とミュージカル嫌いが口を揃えていう文句を言わせるのだ。そして、そんな彼女が胡散臭いマジシャンの手によって歌を聴いたら踊り始める体質になってしまう。そして会社やレストランで音楽が流れると、ドナルド・オコナーもびっくり!柱を蹴って宙返りしたりするダンスマスターに成り果てるのだ。

しかし、画面に映し出されるのはOL三吉彩花の視点。実際には、テーブルクロス引きも失敗しているし、周りのサラリーマンが踊ることはなく白い目で彼女を観ているだけだ。そうです、この映画はミュージカルシーンが歌い手の視点しか捉えていないことをシニカルに批評して魅せているのです。このシニカルさによってミュージカル嫌いを、少しずつ音楽と踊りのマジックへ引き込んで行くこととなる。ミュージカルパートも『雨に唄えば』や『バンド・ワゴン』といったクラシカルなミュージカルを下地に強いて単なる茶番に落とすことはしません。そしてロードムービーをベースにすることで、ミュージカル嫌いは最終的にこのジャンルに愛を感じることとなるでしょう。

ムロツヨシの仮面を剥ぐ

本作最大の驚きはムロツヨシにある。ムロツヨシは佐藤二朗と併せて臭いオーバーリアクションを毎回入れてくる役者だ。正確に言えば、彼らは自らのネタを映画の中でやらなくてはいけない悲しい役者だ。それぞれは己の仮面に自己を封じ込めているのです。そんなムロツヨシの仮面を矢口監督は剥いでみせました。ムロツヨシの持つ胡散臭さを最大限引き伸ばし、三吉彩花を追跡する嫌なおじさん、狂言回しとして機能させる。彼の持ち演出は最低限に抑えている。だからここ数年、最もイキイキとしたムロツヨシが画面で堪能できた。そしてそのイキイキとした演技は、彼が出てくる映画に低評価出しがちなブンブンですら魅了することに成功していた。

そうです、この映画はミュージカルの持つ感情の豊かさを心から信頼して作らなきゃできない魔法に満ち溢れていました。確かにハリウッドミュージカルに比べるとダサいところもあるけれど、それすら愛おしい、そんな作品でした。

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