【ネタバレ考察】『ティーンスピリット/TEEN SPIRIT』オーディション描写の辛辣さがELLEを輝かせる
『ルイの9番目の人生』で脚本家デビューした俳優のマックス・ミンゲラがエル・ファニングを起用して撮った初長編映画『TEEN SPIRIT』は、一見すると王道過ぎるシンデレラストーリーで映画を観まくっている人には薄味かもしれない。レールに敷かれたゴールに向かって映画が進行し、驚きは少ない。しかしながら、女神のような美貌と演技力を持つエル・ファニング演出の観点で観ると、非常に緻密な作品であることが分かります。特にエル・ファニング演じるヴァイオレット・ヴァレンスキーがライブで『Don’t Kill My Vibe』を歌いスタア誕生の瞬間を捉えて終わるクライマックスは、曲単体レベルで聴いたらそこまでインパクトのあるものではないのですが、その舞台に行き着くまでの過程をしっかり地に足をつけて描いているからこそ、観客はまるで売れない時代からそのミュージシャンを応援していて、そのミュージシャンがようやく開花するその瞬間に立ち会う当事者のような気分にさせられ自ずと涙が滴り落ちるのですさて、この記事では、その地に足のついた演出について掘り下げていきます。。ネタバレ記事なのでお気をつけてください。
ブログ記事:【ネタバレなし】『TEEN SPIRIT』エル・ファニング、スタア爆誕!
オーディションという恐怖
この映画では、オーディション描写に非常に力が入っています。エル・ファニングと言えば、Elle Fanning, Elle est fantastiqueと言いたくなるほど、抜群の美貌、妖艶さを持っており、彼女が一度動くと、誰しもが魅惑の手綱によって淡い蜜の淵に誘われる魔力があります。彼女が立っているだけで時空が歪みます。しかしながら、マックス・ミンゲラは、そんな彼女のカリスマオーラを無にしてしまう舞台装置として《オーディション》が使われます。
ポーランド人の田舎者ヴァイオレット・ヴァレンスキーはスタアを夢見て、パブで歌ってみたりするものの客は閑古鳥だ。家庭も非常に閉鎖的で息苦しさを感じている。そんな彼女は部屋の中で独りになる時、感情を爆発させ、艶かしく踊るのだ。そんな彼女はオーディション番組『TEEN SPIRIT』に出るため、オーディションに挑む。オーディションに行くと、彼女のような長身美人はただのモブとなってしまう。なんたって、周りは皆TALENT(=才能ある者)なのだから。圧倒的オーラの坩堝に、エル・ファニングというオーラ製造装置も全く機能しない。いやさせないのだ。ここでは、ただの一般人。いつ落とされてもおかしくない凡人に映るのだ。
観客は、「こいつ、オーディションで落ちるな」と思ってしまう客観的描写と「受かるかもしれない」と理想のお花畑で頑張る主観的描写をクロスさせていくことで、どんどんとヴァイオレット・ヴァレンスキーを応援したくなってくる。まさしく「パリコレ学」を観ているような気持ちになるのです。
だからこそ、彼女が審査員を前に歌う『Dancing On My Own』に魂を揺さぶられるものを感じます。この曲は、好きな人が誰かに取られてしまったと不安になり、胸が締め付けられるほど自問自答し、踊り狂いたくなる気持ちを歌った曲。ヴァイオレット・ヴァレンスキーは成功しないかもしれない馬鹿げた挑戦に身を投じるものの、スタアの座を常に誰かに取られてしまったのではと考え苦悩する。そして独り、狭い狭い部屋の中で踊り狂ったその気持ちを吐露することで、自分を成長させようとしているのだ。ただ、その全身全霊で歌った曲を軽く流されてしまう侘しさ。この現実の残酷さをエル・ファニングの可憐さに逃げず、辛辣に描いてみせたマックス・ミンゲラ監督は、今後注目していきたい監督です。
書いているうちにサントラが欲しくなってきました。
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