【ネタバレ】『旅のおわり世界のはじまり』黒沢清の痛烈な旅する日本人批判

旅のおわり世界のはじまり(2019)

監督:黒沢清
出演:前田敦子、染谷将太、柄本時生、アディズ・ラジャボフテムル、加瀬亮etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

黒沢清が全編ウズベキスタンロケで撮った最新作。数年前にビザなしで渡航できるようになり、今やトラベルジャンキーの間で話題の国だ。しかし、ジャパニーズホラーの名匠・黒沢清が何故、ウズベキスタンで映画を撮る必要があるのか?Youは何しにウズベキスタンへ状態だった。しかも、Twitterをざっと見する限り、前田敦子ラブ映画だというので尚更訳がわからない。

そして、ブンブンは未知の門を叩いた。ウィリアム・バロウズは『裸のランチ』で、吐きながら食べる珍味を緻密に描いていたが、まさしく「それ」でした。

『旅のおわり世界のはじまり』あらすじ


カンヌ国際映画祭で受賞を果たした「岸辺の旅」など国内外で高い評価を受ける黒沢清監督が、「散歩する侵略者」「Seventh Code」でもタッグを組んだ前田敦子を主演に迎え、シルクロードを舞台に、日本とウズベキスタンの合作で製作したロードムービー。取材のためにウズベキスタンを訪れたテレビ番組のレポーターが、番組クルーとともにシルクロードを旅する中で成長していく姿を、現地でのオールロケで描いた。いつか舞台で歌を歌うことという夢を胸に秘めたテレビ番組レポーターの葉子は、巨大な湖に潜む幻の怪魚を探すという番組制作のため、かつてシルクロードの中心として栄えた地を訪れる。早速、番組収録を始めた葉子たちだったが、思うようにいかない異国の地でのロケに、番組クルーたちもいらだちを募らせていく。そんなある日、撮影が終わり、ひとり町に出た葉子は、かすかな歌声に導かれ、美しい装飾の施された劇場に迷い込むが……。葉子と行動をともにする番組クルーたちに、加瀬亮、染谷将太、柄本時生と実力派が集結。
映画.comより引用

対話をしない日本人像

本作は、『Seventh Code』のように前田敦子を動かしたいという黒沢清の欲求が前面に出ている作品だ。だから、この作品において前田敦子の代わりが務まる人物はいない。いきなり、前田敦子演じる葉子が走るところから始まる。ウズベキスタン人が、俺のバイクに乗れとせがむが、彼女はひっきりなしにNoという。しかし、最後には諦めてそのウズベキスタン人の指示に従う。彼女はドキュメンタリー番組のリポーターでありながら、常に孤独だ。男性スタッフは、彼女をモノとしてしか扱わない。悪酔いする遊園地のアトラクションに4度も連続して乗せる程の鬼畜っぷりを魅せる。これは、黒沢清のSっ気を刺激する作品なのだ。なので、物語は非常に歪で、結局何故彼女は歌う必要があったのかなんてよくわからない。前田敦子が元AKBのメンバーだったという設定を知らなければ、彼女の語る「歌がついてこないんです」という言葉は全くわからない。

しかしながら、本作は監督が意図したのかどうかわからないが、海外に出る日本人の傲慢さを痛烈に皮肉った作品と捉えることができます。

本作に登場する日本人スタッフは、全員ウズベキスタンを見下している。単なるロケ地としか思っていないのだ。前田敦子演じる葉子は、ウズベキスタンにいる間、ほとんど日本語で話す。ウズベク語でAssalomu alaykum!(=こんにちは)、Rahmat(=ありがとう)、Kechirasiz(=ごめんなさい)なんてことは絶対に言わないし、英語もなるべく使わない。

食堂のオカンが、現地料理プロフに火が通っていなかったことを猛省し、作り直すのだが、彼女はありがとうも言わない。見かねたオカンは手土産を渡すのだが、ムスッと受け取る。彼女はバスに乗る。どこに行きたいのか、現地人は訪ねているのに、No,Noと施しを拒む。そして、彼女は身勝手なままにウズベキスタンの街並みを駆け抜ける。しまいには、撮影禁止区域を撮影し警察に止められるや否や走って逃げ出してしまうのだ。ウズベキスタンはリヒテンシュタインと並ぶ数少ない二重内陸国故、海への憧れを語られるが、「海なんか危険なところよ」と相手の気持ちなんか考えない発言までしてしまう。日本人観光客は、割と旅行先のことを調べない。ツアーなんかに行くと、現地語も英語も全く使おうとせず、現地人との交流も拒み、ただ物珍しそうに見る人が必ずいる。そういった人に漂う、見下した目線をこの映画は強烈なカリカチュアとして描写しているのだ。しかも、海外ロケであっても黒沢清のホラーテイストは変わることがない。暗がりの中、葉子が歩いていると、やばそうな若者集団が目の前にいる怖さ、道に迷い帰れなくなるかもしれないという恐怖。ウズベキスタン、サマルカンドの青の世界とはかけ離れた場所を黒沢清は撮るのだ。これは、海外旅行でホテルにたどり着けない恐怖や、真っ暗闇の空間に迷う経験、英語が通じない国に行ったことのあるブンブンから見てもホンモノだ。よくその視点を捉えたなと感動を覚えました。

ラストの葉子が歌って終わる、それも本当に元アイドルと思ってしまうほど下手な歌を披露するどうかしているラストも含めて好みな作品でした。

ああーウズベキスタンに行きたい!

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