【日本未公開】『戦争について(DE LA GUERRE)』マチュー・アマルリック棺桶に閉じ込められる

戦争について(2008)
DE LA GUERRE

監督:ベルトラン・ボネロ
出演:マチュー・アマルリック、アーシア・アルジェント、ギョーム・ドパルデューetc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第72回でジム・ジャームッシュがゾンビ映画『The Dead Don’t Die』を放ちましたが、もう一つ鬼才がゾンビ映画を放っていたのをご存知だろうか。『Zombie Child』は『ノクトラマ/夜行少年たち』、『SAINT LAURENT/サンローラン』、『メゾン ある娼館の記憶』等毎回話題を呼ぶ作品を作るベルトラン・ボネロが、ウェス・クレイヴンの『ゾンビ伝説』のルーツであるClairvius Narcisseの物語に基づくゾンビ映画です。1962年ハイチで人材確保としてゾンビ化が行われていた世界から55年後を描くという、奴隷と歴史が紡ぐ問題を象徴させたような内容となっています。さて、今回ベルトラン・ボネロの過去作『戦争のために』を観ました。カイエ・デュ・シネマ2008年ベストテンにおいて10位に躍り出た作品だが果たして…

『戦争について』あらすじ


After a freak accident, Burt finds himself locked in a coffin overnight. After surviving the ordeal, he decides to live his life purely for pleasure, but ultimately he finds himself in a bizarre war of the sexes.
訳:偶然の事故の後、バートは一晩棺に閉じ込められてしまう。試練を乗り切った後、彼は純粋に喜びのために自分の人生を全うすることとなるのだが、終いに彼は男女の奇妙な戦争に自分自身を見つけるのであった。
imdbより引用

ダリオ・アルジェントに愛を捧げ

本作にダリオ・アルジェントの娘アーシア・アルジェントが充てがわれ、棺桶、ガラス張りの部屋でのサスペンス、呪術的な儀式といった暗号が散りばめられているのを観ると、本作はベルトラン・ボネロによるダリオ・アルジェントへのラブコールであることは容易に想像つくであろう。しかし、ひねくれ、己の欲望に拘りを魅せるボネロ監督はそう簡単に観客がこの映画を理解することを阻む。アルジェント的演出はアイスブレイクに過ぎませんでした。

ボブ・ディランの次の言葉の引用から物語は始まる。

If I wasn’t Bob Dylan, I’d probably think that Bob Dylan has a lot of answeres myself.
訳:もし俺がボブ・ディラン出なかったら、俺は多分考えるだろう、ボブ・ディランには沢山の答えがあるだろうってね。

マチュー・アマルリック演じるバートは棺桶に惹かれ、夜な夜な店に入り、棺桶で寝てみる。すると棺桶が閉じてしまい、彼は完全に身動きできぬまま一夜を過ごす。次の日、店員に救助される。彼はこんな体験はもう二度としたくないと思うのだが、その事件によって何か失われたと感じ、再び夜な夜な店に入る。もう一度あのような経験をしたい。閉じ込められたくはないがと。ひょっとしたら自分はもう死んでいるのだが、まだ死に切れていないのではとまで思い始める。

そして彼は、本当の生を求め、あるいは本当の死を求め彷徨ううちに儀式に参戦する羽目となったり、戦争に巻き込まれたりする。

タイトルは、カール・フォン・クラウゼヴィッツの同名軍事戦略論文に基づいており、劇中でもカルト教団の人が読んでいたりするのを目撃するでしょう。カール・フォン・クラウゼヴィッツのこの論文は、ナポレオンによって侵略支配されたプロイセンが、祖国奪還の為にどのように戦うかという戦略について書かれています。その戦術とは、ナポレオンの強さを真似ること。つまり相手の強さを模倣することで勝利に導く手法でした。この理論は、ビジネスにも応用されていたりします。

さて、この映画の場合、「模倣」というのを強調する為に、謎のダンス儀式が延々と続きます。体から魂が抜けてしまったようなぐにゃぐにゃした仕草で、人々は無軌道に躍る。一定のリズムで木霊する舞は、グルーヴを生み出し観る者に高揚感を与えるカルト教団の恐ろしさも同時に伝わってきます。

ふと、この奇妙でよく分からない展開を見せていく、そして戦争映画でもないのに、戦争の論文をタイトルに持ってくるこの作品は結局何を語ろうとしているのか?

これは棺桶に入りたい=死への願望を抱く者が、自己を捨て他者と共鳴する、とことん模倣することで自分を取り戻し生への願望を見出すまでの過程を象徴させたのではないだろうか?よく、一度死ぬことで人は生まれ変わると言われる。バヌアツでは、大人になると通過儀礼としてバンジージャンプを行う。自分を殺すことで、初めて大人になれると信じられている。まさしく、鬱病で、自分以外の他者が宇宙人のようにしか思えない彼は棺桶に閉じ込められたことで、死に対する独特な魔力に導かれる。そして自分を殺す儀式巡りに参加することで鬱から脱出することができる。ベルトラン・ボネロは歪つな結合によって、唯一無二なビジネス書を作ってしまったようです。本作には、宗教やネットワークビジネスになんか嵌らないぞと思っているブンブンですら思わず引き摺り込まれそうな悪魔性が宿っていました。

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