人生の動かし方(2019)
The Upside
監督:ニール・バーガー
出演:ブライアン・クランストン、ケヴィン・ハート、ニコール・キッドマン、ジュヌヴィエーヴ・エンジェルソンetc
評価:10点
ここ数年、世界は慢性的なネタ不足に陥っている。そこで苦肉の策として、他国のヒット作品をリメイクする。グローカルリメイク事業を始めた。韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』は日本(『SUNNY 強い気持ち・強い愛』)やベトナム(『輝ける日々に』)でリメイクされ、アルゼンチンの逆身長差カップル映画『ライオンハート』はフランスで『おとなの恋の測り方』に生まれ変わった。アメリカも当然、この風潮には乗ります。『ありがとう、トニ・エルドマン』をジャック・ニコルソンでリメイクしようとしていたりします。そんな中、フランスの大ヒット映画『最強のふたり』がブライアン・クランストン×ケヴィン・ハート主演リメイクされました。そして、いつの間にかAmazon Prime Videoで『人生の動かし方』という邦題で配信されてました。ってことでウォッチしてみました。これが酷かった…
『人生の動かし方』あらすじ
デル(ケヴィン・ハート)は失業中の元囚人。子供との面会も思うようにできない状況だ。そんな彼が首から下が麻痺している大富豪フィリップ(ブライアン・クランストン)の介護人の面接を受け、なぜか採用されてしまう。これに不満を持つのはフィリップの気難しい助手イヴォンヌ(ニコール・キッドマン)。住む世界が違うデルとフィリップだったが、この出会いが2人の人生を変えていく。
※Amazon Prime Videoより引用
『最強のふたり』がいかに凄いのか?
本作について語る前に、まず『最強のふたり』がいかにフランス映画史にとって重要な作品かについて語る必要があります。まず、『最強のふたり』は2019/05/10時点で、歴代累計観客動員数ランキング3位(1位は『タイタニック』、2位はローカル映画『Bienvenue chez les Ch’tis』)に君臨しており、19,385,300人を動員している。『アベンジャーズ/エンドゲーム』が初週で約335万人動員しているが、このペースでも最低7週かけないと到達できない数字となっています。そして、これはフランスだけでなく日本に入ってくるフランス映画を変えたと考えることができます。フランス映画を思い出して欲しい。特にパリを舞台にした作品を。どんなに貧しい人をテーマにしていても、『最強のふたり』以前は、白人が主人公なケースがほとんどでした。しかも、パリを歩けば分かるのだが、メトロに一度乗れば、物乞いをするロマや人相の悪い黒人の移民がうじゃうじゃいるはずなのに、映画ではひたすらに彼らを映さないようにしているのだ。フランス映画界は慣例的に、映画から移民を排除していた。『最強のふたり』はそこにメスを入れていて、黒人の庶民とブルジョワジーである白人の対話を通じて生のフランスを描こうとした。フランス人が持つ、移民に対する高慢を指摘した。そして、この作品が歴史的大ヒットをしてから、主演のオマール・シーは『サンバ』や『YAO』などといった作品で、フランスにいる移民の象徴として演技をするようになっていった。またスリランカ移民の映画『ディーパンの闘い』や多重国際結婚を描いた『最高の花婿』といった、移民を扱った作品が増えていき、ヒットするようにもなった。
『最強のふたり』はリメイクするにあたって、こういった事情を取り込む必要があるのだ。アメリカの隠された移民事情、問題に切り込めるかが重要となってくる。
薄い!
ただ、このリメイク『人生の動かし方』は全くもって社会に隠された無意識の高慢を暴こうという精神がなかった。人気俳優ケヴィン・ハートを使って、白人のブルジョワと黒人の貧民の戯れる姿を投影しているだけであった。単にお金稼ぎのネタとして本作は作っているようにしか見えないのだ。無論、『最強のふたり』は一見すると『ありがとう、トニ・エルドマン』のリメイクよりかは簡単に見える。しかし、既にアメリカにおける黒人差別や貧富の格差を扱った作品は散々と作られているだけに、そもそも『最強のふたり』的話が存在する意義がアメリカにはなかったのだ。だから、白人が芸術を嗜み、8万ドルで美術品を購入したり、庶民的ホットドッグ屋を訪れる。黒人がオペラと邂逅し感銘を受ける場面が薄っぺらい。意味もなく、オペラのクリシェとして『魔笛』の《夜の女王のアリア》を流されたりすると辟易とする。
結局のところ、フランスが映画の中で無視してきた黒人移民の存在をスクリーンに説教くさくないコメディとして描いたことに意味がある『最強のふたり』から存在意義を抜き、プロットをなぞっただけの『人生の動かし方』はスッポンでしかなかった。ニール・バーガー監督は、何故フランスで歴代累計観客動員数ランキング3位にこの映画が輝いているのか、19,385,300人も動員できたのかをあまりにも軽視しすぎています。ケヴィン・ハートのコミカルさを観たい人にだけオススメできる作品と言えよう。
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