『僕はイエス様が嫌い』ジーザス・クライストは本当にスーパースターなのか?

僕はイエス様が嫌い(2018)
JESUS

監督:奥山大史
出演:大熊理樹、佐藤結良、チャド・マレーン、佐伯日菜子、木引優子etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第66回サンセバスチャン国際映画祭で史上最年少で最優秀新人監督賞、第29回ストックホルム国際映画祭では最優秀撮影賞、第3回マカオ国際映画祭ではスペシャル・メンション賞を受賞したインディーズ映画『僕はイエス様が嫌い』。昨年、東京フィルメックスで上映され話題にもなった本作は5/31(金)にTOHOシネマズ日比谷にて上映することが決まりました。今回、ご縁がありまして試写会で拝見しましたので、感想を書いていきます。

『僕はイエス様が嫌い』あらすじ


大竹しのぶ主演の短編「Tokyo 2001/10/21 22:32-22:41」がショートショートフィルムフェスティバルのコンペティション部門に出品されるなど、注目を集める弱冠22歳の若手監督・奥山大史が、脚本、撮影、編集も担当して手がけた、初の長編作品。祖母と一緒に暮らすため、東京から雪深い地方の小学校へ転校してきたユラは、同級生たちとおこなう礼拝に戸惑いを感じていた。礼拝の習慣や友だちとも慣れていったある日、お祈りをするユラの目の前にとても小さなイエス様が現れる。ユラは願いを必ずかなえてくれるイエス様が持つ不思議な力を次第に信じるようになっていく。
映画.comより引用

ジーザス・クライストは本当にスーパースターなのか?

本作は、青山学院大学に在学中の22歳の若き映画監督・奥山大史が長編デビュー作にて世界の映画賞を数々受賞している話題作であります。映画監督は、デビュー作に自分の全てを投げ入れる傾向があるのですが、この『僕はイエス様が嫌い』も例外ではない。本作は、奥山監督がキリスト教の幼稚園に編入したときに感じた違和感の思い出を掘り起こすように描かれています。

ただ、この映画は面白いことに、他の宗教映画に徹底的に反発した作りとなっています。なので、映画を観ている人程前半は混乱することでしょう。

祖母と暮らすために地方のキリスト教小学校に転入することとなった少年ユラは、キリスト教学校のムードに強烈な違和感を感じる。礼拝に行くよ!と先生に言われ、右も左もわからないまま与えられた聖書片手に礼拝堂へ行く。そして、周りの生徒が祈りを捧げている姿に、拒絶感を抱く。本作の強烈なタイトルから、これは《反発》の物語なのか?と思わせられる。そして、淡々とした物語展開に、ひょっとしてこれはロベール・ブレッソンを意識した作品なのかと感じる。

しかしながら、それは奥山監督の《反発》でもって裏切られることになる。様々な、キリスト教学校に対する嫌悪をユラから引き出したこの物語は、あっさりと学校のムードに溶け込む展開を迎えるのだ。友人はでき、礼拝もしっかりする。何気ない時間が過ぎ去っていくのだ。確かに、小学生は柔軟だ。環境に簡単に適応できるのかもしれない。ただ、映画としてこのアッサリさは結構危険なのではと不安になる。

そして、もう一つ、意表を突く展開が待ち受ける。これは予告編にもあるので言ってもいいことでしょう。よしもとお笑い芸人でもあり、『宇宙兄弟』や『ジャッジ!』、『泥棒役者』など映画俳優としても活躍しているチャド・マレーン扮する小さなイエス様が、このユラ少年の前に現れて小ボケをかましているのです。実写版『こびとづかん』かな?と思われるシュールな展開に驚かされます。

しかし、これらの不安な要素は観客を油断させるトリガーでありました。このゆるーく、のほほんとした田舎の小学校ライフは突如として残酷な話へと急変するのです。そして、その刃が見えた時、タイトルの『僕はイエス様が嫌い』が非常に強い意味を持ってくるのです。

イエス・キリストとユダの関係をロック・オペラにした『ジーザス・クライスト・スーパースター』の楽曲『Superster』には次のように歌われています。

Jesus Christ Jesus Christ
Who are you? What have you sacrificed?
Jesus Christ Jesus Christ
Who are you? What have you sacrificed?
Jesus Christ Superstar
Do you think you’re what they say you are?
Jesus Christ Superstar
Do you think you’re what they say you are?

ブンブン訳:
ジーザス・クライスト ジーザス・クライスト
貴様は誰だ?何を犠牲にしてきたっていうんだ?
ジーザス・クライスト ジーザス・クライスト
貴様は誰だ?何を犠牲にしてきたっていうんだ?
ジーザス・クライスト スーパースター
みんなが言っていたような奴だと思えるか?

『僕はイエス様が嫌い』は、キリストを信じるようになった少年に降りかかる悲劇によって、スーパースターだと思っていたキリストを信じられなくなってくる物語なのです。汚れなき純白の雪原で繰り広げられる、時が止まったかのような世界。そこに、血のナイフを突き刺すことで、神を信じられなくなった少年の苦しみを強調することに成功しているといえます。ラストに少年が行う《ある行為》は非常にショッキングなものでしょう。

奥山監督は、本作に関するインタビューで 「僕は、宗教は死後の世界をのぞき見したい欲求からできたものと考えています。」と語っています。本作は、死後の世界を見てしまった少年の受難の物語だったのです。

日本公開は5/31(金)TOHOシネマズ 日比谷にて。是非、劇場でウォッチしてみてください。


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