【デプレシャン特集6】『イスマエルの亡霊たち』デプレシャンが描く監督苦悩もの

イスマエルの亡霊たち(2017)
LES FANTÔMES D’ISMAËL

監督:アルノー・デプレシャン
出演:マチュー・アマルリック、マリオン・コティヤール、シャルロット・ゲンズブール、ルイ・ガレルetc

評価:60点

妹が大学のゼミでデプレシャンについて研究しているので、ブンブンも昨年は苦しみながらデプレシャンに向き合いました。デプレシャンは、情けない男、クズ男の心理的揺らぎを長い長い時間かけて描くのだが、どうもあまり興味が持てなくて毎回苦痛を味わう。クズ男を描くなら、ホン・サンスやジャック・ロジエの作品の方が魅力的に見えます。さて、2017年に東京国際映画祭で彼の新作が公開された。タイトルは『イスマエルの亡霊たち』。東京国際映画祭やアンスティチュフランセでの評判もよかっただけに日本公開を期待していたのだが、なかなか公開目処がつかないので、DVDを購入しました。

『イスマエルの亡霊たち』あらすじ

映画監督のイスラエルは新作映画の脚本を練っていた。そんな中、20年前に行方不明になって死んだと思っていた妻カルロッタが彼の前に現れる。恋人シルビアと新しい人生を歩んでいた彼は、奇妙な三角関係に悩まされていく…

何故亡霊は複数形なのか?

フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』、コーエン兄弟の『バートン・フィンク』、レオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』と映画人が映画と向き合う作品は、プロットこそ類似しているものの、それぞれの監督の才能の爆発が観られるため、全く違った世界を堪能できる。アルノー・デプレシャンは、本作で自分の映画史と向き合った作品を放った。本作は、まず最初に疑問が浮かぶ。『イスマエルの亡霊たち(LES FANTÔMES D’ISMAËL)』というタイトルだが、亡霊に相当する人物は突然映画監督の前に現れた女カルロッタしかいないのではないか?と。

しかしながら、本作を観ていくとなるほどと頷く。本作には3つの亡霊がいたのだ。まず最初に、死んだはずの女カルロッタ。実態のない《死》という状態から実態を宿って彼の元に現れます。二人目の亡霊は、シャルロット・ゲンズブール扮する今カノ・シルヴィア。彼女はイスマエルの恋人だが、カルロッタが実態を持っていくにつれ、幽霊のように彼の元から消えようとするのだ。そして3つ目は、イスマエルが書く脚本の世界。実態のない、未来にできるであろう作品だ。

そしてこの作品では、イスマエルが次々と目の前に現れては消えていくこれらの亡霊に翻弄され、発狂しそうになりながらもなんとか映画を完成させていく様が描かれていきます。

もう、お気づきだろうか?そうです。この作品はデプレシャンなりのスタイルで『8 1/2』をやってみせた作品なのである。デプレシャンは、長い時間かけてじっくり人間を描いていく。イスマエルを役を演じるマチュー・アマルリックのコミカルさが、男の情けなさ、クズさを面白おかしく描いていく。

女性は、激しく真剣に男を取り合う。シルヴィアは、浜辺でカルロッタで「私の人生をめちゃくちゃにしたいの?」とキレる。それに対して、一切動じず「私は彼と結婚していたのよ」と言う。そういった抗争を、よそにどうしよう、どうしようと思い悩み、事もあろうか肉欲でもって問題を解決しようとする。それが、映画内の脚本を進行させる。

正直、『魂を救え!』のセルフパロディともいえる劇中劇が物語としっかり結びついているように見えず、ノイズになってしまったので、そこまでノレなかったのですが、デプレシャン映画としてはそこそこ楽しめました。ひょっとして、デプレシャンはガチでスパイものをやってみたいのかな?だったら次回作は、真剣にスパイものをやってほしい。

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