【ネタバレ】『ブラック・クランズマンBlacKkKlansman』4つのポイントからスパイク・リーの怒りを掘り下げる

【ネタバレ】『ブラッククランズマンBlacKkKlansman』スパイク・リーの映画史ここにあり

第71回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したスパイク・リー最新作『ブラック・クランズマンBlacKkKlansman』(日本公開は3月)。本作は、長年スランプのように見えた彼のキャリアを復活させる快作であった。しかし、ネタバレになるので、ネタバレなし記事では多くのことを語ることができなかった。この記事では、『ブラッククランズマンBlacKkKlansman』について4つのポイントからさらに掘り下げて語っていく。

【ネタバレなし】『ブラック・クランズマンBlacKkKlansman』成熟したスパイク・リー渾身の怒り

ポイント1:冒頭の演説シーン

冒頭、様々な映画をバックにおっさんが演説するところから始まる。『パットン大戦車軍団』の演説さながら、延々とカリスマ的口調で演説をするのだ。

※日本語翻訳はブンブンが挑戦しています。映画の雰囲気に合わせた意訳です。

We had a great way of life until Martin Luther Coons of this world.
我々は素晴らしい人生を送っていた、マーティン・ルーサーの野郎の世界になるまでは。
※Martin Luther Coonsとは南部でよく使われているマーティン・ルーサー・キングの人種差別的な言葉。

And their army of Commies started their civil rights assault against our holy white Protestant values.
んで、コミュニストたちの軍隊は我が聖なる白人プロテスタントの価値観に対する公民権闘争を始めた。

Do you really want your precious white child going to school with Negroes?
あんたらは本当に、尊い白人の子どもたちを黒ンボと一緒の学校に通わせたいと思っているのか?

They’re lying,dirty monkeys,stopping at nothing to gain theire equality with white men.
嘘つきで、汚い猿ども、白人男性との平等を勝ち取るためには手段を選ばぬ奴らだ。

Rapists, murders, craving the virgin white… Is it “Virgin pure”?
レイプ魔で殺人狂で、渇望する汚れなき白…《純潔》といったほうがいいだろうか?

Rapists, murders, craving the virgin pure flesh of white woman.
レイプ魔で殺人狂で、白人女の純潔な肉体を渇望する奴ら。

They are super predators!
奴らはスーパー・プレデター(酷い捕食者)だ!!

And the Negro’s insidious tactics,under the tutelage of high-ranking, blood sucking Jews, using an army of outside northern black beast…
んで、黒ンボのズル賢い戦略は、最高の指導の下で、北部の外にいる黒い野獣の軍隊を使いユダヤの血をしゃぶることで…

What is it? “Black beast…”
なんだって?《黒い野獣》…

God!Watch this! God!
おぉ神よ!見てくれよ!神よ!

using an army of outside northern black beast agitators determined to overthrow the God-commanded and biblically inspired rule of the white race.
北部の外にいる黒い野獣の扇動軍隊を使うことは神の御告げと聖書にインスパイアされた白人の掟を妥当することを決定づけるのだ。

It’s an internationalJewish conspiracy.
それは国際的なユダヤ人の陰謀です。

May God bless us all.
神の御加護があらんことを

本作は、KKKが黒人だけでなくユダヤ人も差別していたという事実を描いている。冒頭5分近く、レイシストの暴言を描くことで、スパイク・リーは映画に強烈なメッセージを与えている。後述する、エンディングで挿入される近年の黒人やネオナチの暴動とも併せて、「人々はクラスタ(房)を形成するとき、他のクラスタに対して激しく当たるようになり、それが暴動に繋がる。そのことは四半世紀以上経った現代も変わらない」ということを強調しているのだ。

これはそれこそ『ドゥ・ザ・ライト・シング』で黒人と白人の対立の横で、プエルトリコ人と韓国人キャラクターを挿入したことで、黒人VS白人の構造の下にある、人間の悪を描写したことと共通している。

ポイント2:黒人集団とKKKの描写

本作では、ジョン・デヴィッド・ワシントン演じるロン・ストールワース刑事が潜入する市民権獲得の為に定期的に集会を行なっている黒人団体の描写と、アダム・ドライバー 演じるフリップ・ジマーマン刑事が潜入するKKKの様子が交互に描かれている。通常、この手の映画では、どちらかの描写に偏ってしまうところだが、スパイク・リーは均等に描く。これにより、クラスタというのがどういうものかという本質が顕になっている。

詰まる所、主義主張の形は違えど、黒人集団もKKKも自分の主義主張を通す為に、他の人種やクラスタを蔑む。黒人集団は、ブラックパワーと叫び、白人を見下し、KKKは保身の為に、黒人やユダヤ人を蔑視する。これが過激化していくと、暴動に繋がるのだが、クラスタの暴言、悪口は中々クラスタ外部には波及していかないので、日常は平凡に進んでいく。暴動や事件が起きた時、初めてクラスタの持つ《棘》が人々の目に止まる。まさしく、ここ数年定期的に、黒人やネオナチの暴動がメディアで取り上げられている現状を完璧に捉えていると言えよう。人々が公民館や家に集まり、憎悪を増幅させる文化は今でも変わらない。多少、集会所がネットに移ったりしても、本質的行動原理は変わらない。そして、今や国のトップであるドナルド・トランプ自体が、そのクラスタの暴走を利用してアメリカ国内だけではなく、世界を揺さぶっている。スパイク・リーの社会に対する危機感がこの2つの組織の対比に現れているのだ。

ポイント3:『國民の創生』絶叫上映

さて、この作品最大の功績は、『國民の創生』の絶叫上映シーンを生み出したことだろう。『國民の創生』と言えば、D・W・グリフィスが1915年に製作した超大作で、映画史を学ぶ者なら避けて通ることができない名作の一つである。しかしながら、町山智浩がオールタイムワーストの一つに選んでいる通り、中身は差別に満ちた凄惨な映画である。『ブラッククランズマンBlacKkKlansman』では、本作をKKKの集会で上映する場面がある。そこに集まる人々は、KKKの活躍に拍手喝采し、

The inspiration!!(これぞインスピレーションだ!)

Send him to hell!(彼を地獄に送り込め!※黒人に対して)

といったメッセージをスクリーンに投げつけながら映画を楽しんでいる。今でいう絶叫上映に近い形で半世紀以上昔の作品が上映されているのだ。日本に住む我々からすると、『國民の創生』は教科書上の映画に過ぎず、熱心なシネフィルは多少観ていたりはするけれども、基本的に勉強のために観る存在でしかない。本作がいかに社会と関わっていたのかが、中々実感湧かないのだが、スパイク・リーはこの差別的名作と社会との結びつきを魅せてくれた。過去に、『國民の創生』と社会との結びつきを描いた作品があっただろうか?ブンブンはパッと思いつかない。そう考えると、この作品は映画史、現代アメリカ史の貴重な資料と言えるであろう。

ポイント4:ラスト映像

さて、この映画のラストは、Filmarksでも何名かが言及されている通り、2015年頃から定期的に発生している、黒人やネオナチ等の一部過激派が行なっている暴動の映像が延々と流されるシーンとなっている。エンジンフル回転で、群衆に突っ込む車なんかが映されていて、思わずヒィと悲鳴をあげてしまうほどショッキングな映像が流される。正直、この場面がなくても今日のアメリカ批評であることは分かるし、この取ってつけたかのようなドキュメンタリー映像は説教臭さが増すだけなので個人的に評価できないものだ。

しかしながら、あえてスパイク・リーが《映画》としてのクオリティを下げてまでこの場面を入れたのは納得いくことでもある。今や暴走し、世界中を混沌の渦に巻き込んでいるドナルド・トランプ。彼は批判に屈しない勢いで過激なメッセージを発信し続け、保守的な人々の感情を揺さぶっていく。そして、保守的な人々のクラスタをドンドン強固なものにしていって、偏った世界を創生しようとしている。これは、分かりやすい表現でも使って、世界中に警鐘を鳴らさないといけない。そして、現にこの作品は、ケイト・ブランシェット含むカンヌ国際映画祭の審査員の心に刺さり、見事グランプリを獲った。スパイク・リーの想いは伝わったのだ。だから、本作は成功したのだ。

故に、この映画はブンブン、そこまで評価していないものの現代社会にとって非常に重要なサプリメントであることは認めたい。そして、ドナルド・トランプ的偏っていて暴走した政治を行なっている日本にとってもこの映画は非常に大切だ。だから日本公開してほしいし、なんならヒットしてほしい。学校の授業で本作を上映した方がいいと感じました。

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