ラ・ポワント・クールト(1955)
La Pointe Courte(1955)
監督:アニエス・ヴァルダ
出演:シルヴィア・モンフォール、フィリップ・ノワレetc
評価:65点
アニエス・ヴァルダの新作ドキュメンタリー『顔たち、ところどころ
』が来月9/15よりアップリンク渋谷他にて公開される。それを記念して、大寺眞輔は新文芸坐シネマテークでデビュー作『ラ・ポワント・クールト』 (9/7)と『カンフー・マスター!』(9/14)を上映する。しかしながら、ハードコアシネフィル向けVODサイトMUBIでは、既に先日『カンフー・マスター!』が配信され、そして勢いで『ラ・ポワント・クールト』も配信された。ってわけで、一足早くヴァルダのデビュー作を堪能しました。
『ラ・ポワント・クールト』あらすじ
若い男が駅に到着し、妻と会う。この夫婦は結婚して4年になるが、倦怠期に陥っている。そして妻は、夫の元を去ろうと決意している。そんな二人は、荒れ果てた漁村を歩きながら対話していくのだった…『幸福』の原石ここにあり!
本作は、アニエス・ヴァルダのフィルモグラフィー史上地味であまり語られることはない。どうしても演出的にユニークな『5時から7時までのクレオ』、『幸福』、そしてドキュメンタリー時代の彼女にフォーカスが当てられてしまうのだが、このデビュー作にして彼女の原石は映画史にとってかなり重要な作品なのではないだろうか。というのも、本作は1949年に黒澤明が撮った『野良犬』で確立された対位法というのを、執拗に取り入れている。そして何よりも、多くの映画監督に影響を与えたイングマール・ベルイマン監督作『仮面/ペルソナ
』(1966)の技術的原点だったからだ。未見なのでなんとも言えないが、下手するとアントニオーニの愛の不毛三部作にも影響を与えている可能性があります。
本作は、男が漁村の駅にやってくるところから始まる。そこで妻と会い、ホテルを目指すのだが、その間に貧しい漁村の姿が映し出される。どんよりとした空気が流れる。そして、ホテルにつき、また二人は朽ち果てた漁村を歩き、対話を始める。妻は夫と別れることを決め込んでいる。夫は、最初のヴァカンスでの思い出、4年間の歩みを振り返ることで、再び妻との中を引き戻そうとするのだが、平行線を辿る…非常にシリアスな会話劇で、不吉な象徴として黒猫まで登場するのだが、終始コミカルな音楽が流れているのだ。対位法が使われているのだ。対位法って、いわば必殺技のようなもので『野良犬』においては犯人と刑事が対峙する場面で使われることでシーンを強調していた。『時計じかけのオレンジ』の雨に唄えばのリズムに乗って暴力を振るうシーンも、主人公の暴力性・残忍性を強調するために対位法が使われていた。しかし、本作は、執拗に終始コミカルな音楽を流す。画面では、ヘドロのようなもの、ありとあらゆる死体や廃墟が次々と映り、離婚を回避できる可能性なんぞ、0.1%ぐらいに過ぎない程絶望的な姿しか魅せていないのに。必殺技を常時使うことによって物語にメリハリがなくなり、ちょっと退屈してしまった。と同時に、アニエス・ヴァルダの原石たるものを見出した。
例えば、本作で《息絶えていく夫婦関係》を象徴する為に、動物の死を効果的に使っている。これは後々の『幸福』における《ひまわり》に応用されている。また、彼女の朽ちたものに対する執着は『落穂拾い』に通じている。『ジャック・ドゥミの少年期』での少年の眼差しは、本作をかなり意識している。
『仮面/ペルソナ』の原点
本作を観て驚いたことがある。度々、ブンブンが引き合いに出しているイングマール・ベルイマン監督作『仮面/ペルソナ』の原点はこの映画だったのだ。
特に二人が対話し過去を共有することで一つになっていく様子を、二つの顔を合体させるというテクニックは明らかに本作からの影響を受けている。そして、こちらの方が非常にカッコイイ画を魅せてくれるのだ。ベルイマンといえば、他の監督から演出を真似されてばかりのイメージが強いのだが、やはり彼も映画を作る上で参考にしている物はあるんだなと感じました。
ってわけで、映画史上、陰日向にあるが重要な作品でした。ヴァルダ好きは是非!
アニエス・ヴァルダ作品記事
・『顔たち、ところどころ』日本公開9月アニエス・ヴァルダのアートツアー
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