【ネタバレ考察】『Vision』河瀨直美の謎を読み解く鍵は中上健次にあり!

またしても惜しいポイント

今回の河瀨直美映画は、珍しくフラストレーションが堪らなかった。寧ろ、真正面から中上健次をやろうとする意欲に惹きこまれた。そして明らかに若松孝二の『千年の愉楽』よりかは、中上健次の世界を大切にしようとしている気概を感じた。しかしながら、やはり裏切らないのが河瀨直美。致命的かつ惜しい演出があまりにも多かった。そこで3つの観点から、批評していく。

ダメダメなポイント1:本能が描けていない

折角中上健次をやろうとしているのに、《本能》が全く描けていないのだ。中上健次云々を無視して考えても、セリフで本能について語る場面があり、制御不可能な自然が人間から本能を引き出そうとしている描写が必須となってくる。それが永瀬正敏とジュリエット・ビノシュのセックスシーンで表現されているのだが、これが唐突過ぎる。食事のシーンからの切り返しでいきなり行為が行われているのだ。どのようにして本能がむき出しになったかを描いていない。

ソフィア・コッポラ監督の『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ

』もそうだが、セックス描写に対して逃げ腰になっているのだ。これでは、ただのセックスシーンだ。二回も同じようなシーンを挟む意味が分かりにくくなってしまう。ここは、冷静沈着な永瀬正敏が、ジュリエット・ビノシュの言葉、そして荒々しい自然の音によって発情し、本能的に襲う。それに彼女が乗るという一連のシークエンスを入れるべきだった。

ダメダメなポイント2:熱を感じない炎

『火垂』では、熱気のある火炎、暑苦しい情景を魅せつけていた河瀨監督。しかし、今回、何故か業火が包むシーンですらひんやりと涼しげなのだ。1000℃の炎でPain(痛み)を消し去ることでVisionが見えると語るシーンがあるにも関わらず、劇中の業火が1000℃のものに見えないのだ。

これは、全編通じて秋〜冬の寒々しさ、そして常に霧と水の印象を前面に出して物語を進めてしまったからであろう。そして業火のシーンが、霧雨のような空間で展開するので、熱気を感じにくいものとなっている。奈良の文化には詳しくないが、中上健次的業火を演出したいのであれば、舞台を夏にして描いた方が良い。もしどうしても冬で1000℃の熱気を演出するのであれば、シーンを夜中に持ってきて炎を際立たせる必要があると思う。

ダメダメなポイント3:部落問題を避けたことで薄い物語に…

やはり、ブンブン気になったのは、折角露骨に『千年の愉楽』をやろうとしているのに全く被差別部落の問題を描かないところが気になった。奈良にだって被差別部落はある。確かに、インスピレーションとして中上健次を引用しただけで、被差別部落について描こうとは思っていないことはよく分かる。自然の神秘と人間の関係性に特化して描こうとしている気持ちはよく分かる。

ただ、ここまで中上健次色に染めておいて、彼の肝を無視するのは流石に失礼だと感じた。引用するのは『火まつり』に留め、オリュウノオバ描写は諦めた方がよかったのではと感じた。

ナガさんの考察が素晴らしい

本作が難解すぎるせいもあってか、ネット上にあまり有益な考察記事が転がっていない。しかし、ナガさんの記事《【ネタバレ】『vision-ビジョン-』解説・考察:河瀨直美監督が作り出した現代版「古事記」

》がとても参考になった。

ブンブンとは全く違うベクトル『古事記』の視点から考察されているのだが、それぞれのエピソードを古事記の話と対比させている。短期間で、ここまで深く書けるとは羨ましい。中でも、ブンブンの理解の助けになったのは白い犬の意味。個人的に白い犬がトンネルを抜ける挿話はよく分からなかった。しかし、ナガさんはこう解説している。

古事記における白い犬というのは、「火」を止めた重要なキャラクターなんです。本作『vision-ビジョン-』でも最後に「火」のモチーフが登場し、鈴を焼き尽くそうとします。しかしその「火」から彼を守ったのは、もしかすると先に死んでしまっていたあの白い犬だったのかもしれません。

これには唸らせられました。興味ある方は是非、読んでみてください。

最後に…

うーん、ただやはり私は河瀨直美映画が苦手だ。大学時代に中上健次研究をしていただけに、楽しめたことには楽しめたのだが、今回も自己陶酔の域を出ず、表現に逃げている場所が多く見られた。テーマは面白いんだけどなー。一層のこと、中上健次の『岬』の映画化にでも挑戦してほしい。次回こそは、傑作をと祈るばかりであった。

ブンブンが大学時代に書いた中上健次リポート:【リービゼミ レポート】中上健次「岬」論

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