【カンヌ国際映画祭特集】『ビューティフル・デイ』ホアキン・フェニックスの演技は凄いが…

ビューティフル・デイ(2017)
YOU WERE NEVER REALLY HERE(2017)

監督:リン・ラムジー
出演:ホアキン・フェニックス、
エカテリーナ・サムソーノフ、
アレックス・マネットetc

評価:40点

ミヒャエル・ハネけの『ハッピーエンド』、サフディ兄弟の『グッド・タイム

』と鬼畜監督新作が相次いで、毒っ気たっぷりなタイトルで新作を放った。『少年は残酷な弓を射る』で注目を浴びたリン・ラムジーの新作『YOU WERE NEVER REALLY HERE』もそれにあやかってか、フランス、ドイツ、そして日本で上映する際のタイトルを『ビューティフル・デイ』に変更された。

予告編を観る限り、絶望しかない。少女なんか二度誘拐されている。もはや明日すらないのではと思う鬼畜さ。ゲテモノ枠にも関わらず、第70回カンヌ国際映画祭では脚本賞と男優賞(ホアキン・フェニックス)を受賞した。

そんな日本公開6/1(金)の問題作『ビューティフル・デイ』だが、Filmarksのオンライン試写会に当たり、昨日拝見しました。果たして、、、

※本記事はネタバレ記事ではないのだが、勘が鋭い人が読むと展開が分かってしまう恐れがあります。なので、ネタバレから逃げたい派のそこのあなたは、今すぐこのページを閉じてください。

『ビューティフル・デイ』あらすじ

ジョナサン・エイムズの短編小説『You Were Never Really Here』原作。
元軍人のジョーは、腕っ節の強さを活かして、誘拐された人を救う闇家業を行なっていた。ある日、いつものように少女を救助するのだが、誘拐犯に返り討ちに遭ってしまう。再び誘拐された少女。ジョーは果たして少女を救うことができるのか…

陳腐な幻影に不協和音、そこに煌くフェニックスの影

本作は、劇中でほとんど言及されていないのだが、明らかにPTSDの映画だ。『アメリカン・スナイパー

』のように、屈強な軍人が、故郷に帰り、罪意識が増幅することによって精神がぶっ壊れていく軍人を描いた作品だ。前作『少年は残酷な弓を射る』で子育ての苦痛から発生する幻覚を、少年による殺人事件という要素を効果的に使って演出したリン・ラムジーが、今回は軍人のPTSDで似たような話を描いた。そして、音楽にはポール・トーマス・アンダーソン映画でお馴染みレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドを起用した。

しかし、『グッド・タイム』という似た作風の作品を前に、本作は風化してしまった。確かに、ホアキン・フェニックスのPTSDによる苦しみを暴力性に変換していく演技は凄まじい。『ザ・マスター』同様、何をするのか分からないサイコパスっぷりの徹底には舌鼓を打つ。カンヌ国際映画祭男優賞は確かに彼以外ありえない。しかし脚本が素晴らしいかといわれたら、正直安直で陳腐だ。何故原題が、『YOU WERE NEVER REALLY HERE(あなたはマジでここにいなかった)』のかが、ジョーがPTSDだと分かった途端理解できる。そのトリックこそ面白いのだが、ラストまでYOU WERE NEVER REALLY HEREというタイトルを語るだけになってしまっている。

ジョーは暴力的なのは何故か?ジョーは何故苦しんでいるのか?それはPTSDだから。それだけで終わってしまているのだ。『グッド・タイム』では、頭が悪いから暴力で解決しようとするのだが、それがいつしか、病気の弟を救うための暴力に変わっていき、その暴力でもって病院に監禁されている弟を救ったら…とドンドン、暴力の意味合いが変化していくツイストがあった。そのようなツイストが『ビューティフル・デイ』にはなかった。

では、演出は上手いのか?これが上手いとは言えなかった。ジョーは、過去の幻影に囚われている。恐らく、子どもを殺したトラウマがあるのだろう。子どもの目がジョーの脳裏を木霊する。その苦痛を演出する為には、ジョーの目線をしっかり映像で表現する必要がある。『グッド・タイム』の逃走シーンの目線のよう、あるいは『サムライ

』での車泥棒の場面のように。しかし、どうもカメラはジョーに近づきたがらないらしい。ジョーを遠くから見守るカットばかりなのだ。なので、結局、ジョーの幻想の世界に観客を引きずりこむことができなかった。

ぶつ切り傾向のあるジョニー・グリーンウッドの不協和音もあり、個人的に消化不良な作品でした。

でも、ホアキン・フェニックスの演技だけは素晴らしいので、気になる方は是非映画館でウォッチしてみてください。

6/1(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿バルト9他にて公開です。

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