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【ハル・ハートリー特集】『ヘンリー・フール』ポエムを魅せないポエム映画

【ハル・ハートリー特集】『ヘンリー・フール』ポエムを魅せないポエム映画

ヘンリー・フール(1997)
HENRY FOOL(1997)


監督:ハル・ハートリー
出演:トーマス・ジェイ・ライアン、
ジェームズ・アーバニアク、
パーカー・ポージーetc

評価:65点


ハル・ハートリークラウドファンディングに参加して、ようやく届いた『ヘンリー・フール』三部作。早速一作目『ヘンリー・フール』を観てみました。本作はハル・ハートリーの転機となった作品とも言われ、自身のキャリア最高とも言えるカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した代物だ。なんと、海外のDVDにも関わらずリージョンコードがALLになっている為か実家のテレビで再生することができました!さて、どんな作品なんでしょう?

『ヘンリー・フール』あらすじ

冴えない掃除夫サイモン・グリムの元に謎の男ヘンリー・フールが居座る。彼は飲兵衛で、変態なんだけれど凄腕の作家らしい。彼はサイモンに文才があると語り始め、サイモンに詩を書かせる。やがて、サイモンは文壇で社会現象になるまで登りつめる。そしてサイモンは師匠ヘンリー・フールに恩返ししたいと思い始めるが…

ポエムを魅せないポエム映画

ポエムを扱った映画だと、昨年『パターソン』『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』公開された。どちらも劇中でポエムを語るシーンがある。ポエムを魅せることが非常に重要になっている。

しかし、この『ヘンリー・フール』はしきりにポエムを魅せようとしない。ハル・ハートリーは『トラスト・ミー』で韻を踏んだ台詞回しを魅せていたにも関わらず、本作ではほとんど言葉遊びをしない。ハル・ハートリーの天下の宝刀が最大限活かせる内容にも関わらずあえてそれを封印して描き、それでカンヌ国際映画祭脚本賞を獲ったのは正直驚いた。

というのも、カンヌ国際映画祭脚本賞を与えるなら『トラスト・ミー』の方が明らかにそれに値する。実際にその年のカンヌ国際映画祭コンペティション作品を調べてみた。

第51回カンヌ国際映画祭コンペティション作品一覧

・『ナンニ・モレッティのエイプリル Aprile』(ナンニ・モレッティ)
・『愛する者よ、列車に乗れ
Ceux qui m’aiment prendront le train』(パトリス・シェロー)
・『Claire Dolan』(ロッジ・ケリガン)
・『Corazón iluminado (Foolish Heart)』(ヘクトール・バベンコ)
・『Dance Me To My Song』(ロルフ・デ・ヒーア)
・『Hole-洞』(ツァイ・ミンリャン)
・『ラスベガスをやっつけろ
Fear and Loathing in Las Vegas』(テリー・ギリアム)
・『セレブレーション Festen』(トマス・ヴィンターベア)
・『フラワーズ・オブ・シャンハイ 海上花』(ホウ・シャオシェン)
・『ヘンリー・フール Henry Fool』(ハル・ハートリー)
・『イディオッツ Idioterne』(ラース・フォン・トリアー)
・『天井桟敷のみだらな人々 Illuminata』(ジョン・タトゥーロ)
・『フルスタリョフ、車を! Хрусталёв, машину!』(アレクセイ・ゲルマン)
・『肉体の学校 L’école de la chair』(ブノワ・ジャコ)
・『ニコラ La classe de neige』(クロード・ミレール)
・『La Vendedora de rosas (The Rose Seller)』(Victor Manuel Gaviria)
・『天使が見た夢 La vie rêvée des anges』(エリック・ゾンカ)
・『ライフ・イズ・ビューティフル La vita è bella』(ロベルト・ベニーニ)
・『永遠と一日 Mia aioniotita kai mia mera』(テオ・アンゲロプロス)
・『マイ・ネーム・イズ・ジョー My Name Is Joe』 (ケン・ローチ)
・『ジェネラル 天国は血の匂い The General』(ジョン・ブアマン)
・『ベルベット・ゴールドマイン Velvet Goldmine』(トッド・ヘインズ)

このラインナップを見ると、脚本で勝負している作品が少ないように見える。無論カンヌ国際映画祭脚本賞は1985~1993年まで廃止されていた賞なので『トラスト・ミー』はどちらにせよ受賞できなかった。

この世は矛盾だ!

本作はハル・ハートリーが悩みに悩んで作った作品と言える。本作で、謎の男ヘンリー・フールが出世していくサイモン・グリムに対して「この世は矛盾だ。君はクソの中を歩くのが上手い。つまり世渡りが上手い。だが私は下手だ。」というシーンがあるのだが、それが非常に力強く感じられたのは、ハル・ハートリーのコンプレックスが滲み出ていたからだと言える。1990年代にブレイクして大御所となった監督にはコーエン兄弟やクエンティン・タランティーノ、アン・リーなんかがいる。どの映画監督も強烈な作家性が認められ、大きな賞を獲りハリウッドからビッグバジェットを提供され好きなように作品を作っていっているのに、何故自分はブレイクしないんだろうという苦悩がこのヘンリー・フールのキャラクターにぶつけられている。

だからこそ、ハル・ハートリー映画好きが期待するような表現を抑制して本作は作られている。

それ故に、137分という上映時間が冗長に感じたり、物語構成もぎこちなかったりする。だから、初ハル・ハートリー映画としては絶対にオススメしない作品だ。しかし、ハル・ハートリー好きは是非とも挑戦してほしい。本作から漂うハル・ハートリーの人間味に惚れてしまうこと間違いなしだ。

嘔吐、流血は成長の証

本作は食事中に観るには相応しくないほど嘔吐と流血シーンが多い。血の底で泥のように生きる者たちが地を這いつくばるようにして生きる様子を嘔吐や流血に託しているのだ。先述の通り、本作では肝心なポエムの中身を魅せてくれない。余程英語の筆記体を速読できる人にしか中身はわからない。その代わりに、自分の心にある不満やモヤモヤをポエムにトレースするメタファーとして嘔吐と流血が使われているのだ。

人々の心を鷲掴みにするポエムがいかに人生の泥沼から作り出されているかを的確かつ斬新な表現で演出する。ここにハル・ハートリー演出の真骨頂があると言えよう。映画を観るものは映画制作者の背景を知らずに絶賛したり酷評したりする。ただ、この作品を観るとハッと我に返る。ハル・ハートリー映画としては普通の部類ではあるが、マスターピースであることに間違いない。やはりクラウドファンディングに参加してよかったなーと思った。

P.S.コンポジションノートにノスタルジー


本作でサイモンがポエムを書く際に使用するノートを見て懐かしくなりました。高校二年生の時にアメリカ留学して、その際にあまりのデザインの良さから衝動買いして使っていた記憶があります。ページ数が多く、数学の演習問題を解くのに抜群の使いやすさを誇っていました。これ、無性にまた使いたくなった。今度買って会社で使おう♪

【2/24更新】ハル・ハートリー DVD-BOXアマゾンでも発売


ヘンリー・フール3部作のDVD-BOXがAmazonでも販売始まりました。値段はプライム価格で¥12,410です。在庫が少ないため、興味のある方はお早めの購入をオススメします。

ハル・ハートリー感想

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