夜明け告げるルーのうた(2017)
仏題:Lou et l’Île aux sirènes
英題:Lu Over the Wall
監督:湯浅政明
出演:谷花音,下田翔大,
篠原信一,柄本明etc
評価:75点
新春初映画館はアップリンクで湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』を観てきた。
会社の研修で忙しく、公開当時見逃した作品だ。果たして…
『夜明け告げるルーのうた』あらすじ
東京出身の中学生カイは動画サイトに挙げた作曲がBUZZったせいで同級生の遊歩と国夫からバンドに誘われる。あまり乗り気ではなかった彼をバンドに引きつけたのは人魚のルーだった。歌に惹かれてやってくる不思議な人魚。遊歩と国夫とカイはルーと共にセッションを繰り返していた。そんな中、漁村のイベントでルーと共にライブパフォーマンスをしたせいで、想像を絶する出来事が襲いかかってくる…限りなくポニョに近く、限りなくポニョから遠い映画
フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭長編部門で最高賞にあたるクリスタル賞を受賞したとはいえ、ヴィジュアル、ストーリーが『崖の上のポニョ』のパクリ感が否めない。期待はしてしなかった。
しかし、観たらビックリ!『夜は短し歩けよ乙女
』に匹敵するクレイジーな秀作だった。やっていることはポニョと大差ない。ドン引きレベルの災害が発生しているのに、妙に丸く収めていく。人間の罪は深いのにあっさり許されていくあたりまでポニョと一緒だ。故に致命的な物語の欠点を有している。だが、この映画は圧倒的センスオブワンダーとポニョ以上に深い社会批判で、欠点なんかどうでもよくなっていく作品である。
例えば、音楽によってトランスフォームする人魚ルーというキャラクターに合わせ、狂ったように人々を動かすことで出落ちの領域を超えしっかり物語とキャラクターが結びつく。キャラクターの肉付けとして、しっかり音楽が機能しているのだ。
また、ジェームズ・キャメロンは眼を丸くするであろうシェイプ・オブ・ウォーター。形なき水に、トンデモナイ形を与えていく湯浅政明監督に私は惚れ込みました。
そして、さりげなく深く描くメディア批判のキレが非常に鋭利なところに感動を覚えました。東京出身の主人公カイはyoutuberとして成功している。そんな彼をクラスメイトがなんとかバンドに引き込もうとする。しかし、カイは知っている。有名になることがいかにつらいことか。自分だけの世界が有名になることで失われることを。
だからこそ、人魚ルーを人前に出そうとしなかった。
ただ、寂れた漁村の者は知らない。東京というユートピアを夢みて、バンドを組む。ルーと一緒にでたら有名になり、潰れそうな親の会社も救えると感じる。
このミクロな構図からマクロな構図へとシフトしていく。一度ルーが有名になったら、人々は押し寄せる。皆バシャバシャ写真を撮るが、1mmもバンドやルーの気持ちを考えない。ちょっとでも不祥事を起こしたら、手の裏を返す。
まるでふなっしーが、テレビで散々いじめられ、笑い者にされ、捨てられたかのようにルーが扱われていくことに苦しくなった。
映画のトーンはとことんポップで明るいのに、実はトンデモナイ社会批判を盛り込む。湯浅政明、、、恐ろしい子と思いました。東宝かなんかが口を出したのだろうか、あのゆるすぎるエンディングはだからこそ最大の致命傷になっていた。せっかく、ルーの父親という不気味な存在を登場させた。それも中盤まで、ゾンビ魚を大量生産していたにも関わらず、全くその伏線は回収されず、味方になっているのだ。それも気がついたら、漁村とルーと父親が力を合わせて戦っているのが「漁村の祟り」とのことだが、全くもって実態がなく、緑色の浸水を人々が指差して「祟りじゃー」と言っているだけなのでいまいち盛り上がりません。せっかく湯浅政明にしかできない魔法があるのなら、勿体ぶらず使えばいいのに…と思ってしまう。そう考えると、やはりルーの父親とカイが直接対決する展開があってもいいのではと感じてしまった。
そして極め付けは、あれだけ黒いことを生き物にやってきた漁村の人々をああも簡単に許してしまうのは、『フラットライナーズ』級に甘い。あんだけ、人魚の残酷な設定を付け加えているのなら、全員アレな結末でも良かったのではと思った。
とはいえ、観て損はない。むしろ傑作なので、未見の方は是非!曲も痺れる程ハマるぞー
アップリンクのセール1/14(日)まで
アップリンクで新春セールを行なっていた。セール棚にあるDVDが2本で1500円、3本で2000円で販売されていたのだが、なぜかキェシロフスキーの『デカローグ』が軒並み置いてあった。本作は、色んな映画人のオールタイムベストに入っており、あのキューブリックも認めた傑作テレビ映画。しかし、全10話集めようとすると数万は下らないプレミア物。TSUTAYA渋谷店の発掘良品コーナーに行っても毎回何話かが抜けているためなかなか最高の環境で見ることができない作品だ。流石に超プレミア価格がついている1,2話は売り切れでしたが、3~10話を買い占めることができました。また、ついでに絶版になっている『黒い眼のオペラ』やマウスパッド付きDVDBOX『火を噴く惑星』なんかも買ってなんと4000円ポッキリでした。
他にも石井裕也の初期作等、珍しい作品が何本か残っていたのでシネフィルは是非行くことをお勧めします(1/14まで開催中)。
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