ハルチカ(2017)
監督:市井昌秀
出演:佐藤勝利、橋本環奈、小出恵介etc
評価:100点
映画ライターのヒナタカさんと今年の2月にYoutubeラジオで『ラ・ラ・ランド
』について語った際、彼が絶賛していた作品がある。それは『ハルチカ』だ。初野晴による日本の推理小説のシリーズの映画化。予告編を観る限り、『ちはやふる
』の二番煎じというよりか、よくある青春キラキラ映画というイメージが強い。なので、当時社会人なりたてブンブンは研修で忙しくパスしてしまいました。先日TSUTAYAにこの『ハルチカ』のDVDが並んでいて、なんとなく借りてみました…するとこれがトンデモナイ傑作だったのです。
※映画ライターのヒナタカさんのレビュー「『ハルチカ』が100点満点で8000億点の理由!橋本環奈が佐藤勝利をイジって全ての人が幸せになる大傑作!」
『ハルチカ』あらすじ
新入生のチカは、入学早々吹奏楽部に入部しようとする。しかし、吹奏楽部は廃部が決まっていた。気の強い彼女は、9人メンバーを集めて吹奏楽部を復活させようとする。偶然再会した幼馴染みのハルタを強引にメンバーに惹き込み仲間集めをするが…北野武に次ぐ芸人上がりの巨匠ここに現る!
お笑い芸人が映画監督を務めることはよくある。北野武、松本人志、板尾創路etc 最近は吉本興業が本格的に映画業界に参画し、毎年沖縄国際映画祭でお笑い芸人が製作及び主演した作品が上映されている程盛り上がりを魅せている。ただ、映画監督として成功、作家性を築けている人は北野武以外いないように見える。北野武が強烈な作家性で世界を凌駕しすぎて、他のお笑い芸人上がりの監督が彼を超えられないのは当然なのかもしれない。しかし、ここに来て素晴らしいお笑い芸人監督が出現した。それは市井昌秀だ。えっ誰かって?元『髭男爵』のメンバーだ。
そんな市井昌秀が、今年、『僕らのごはんは明日で待ってる』に次いで、2本目の映画を発表した。初野晴の青春キラキラ小説(原作未読だが、どうらやミステリー小説要素の方が強いらしい)を映画化した『ハルチカ』だ。予告編を観るとよくある青春キラキラ映画に見えるが、巧みなギミックが盛り込まれたこれまたクレイジーな傑作だった。
まず、てっきり普通の吹奏楽部物語だと思うとビックリする。ストーリー展開が完全にミステリーだからだ。これは原作がそうだかららしい。廃部寸前の吹奏楽部を復活させる為に新入生のチカは先輩を説得&仲間集めをするのだが、どうもおかしい。吹奏楽部に何があったかが、段々分かっていく。この興味の持続、疑問という薪木の投入タイミングが絶妙だ。そして、『七人の侍』の如く個性的な仲間が集まってくる躍動感がたまらない。しかも本作を2度目観たときに気づいたことだが、メンバー集めの話は丁度上映時間の半分地点の59分で終わらせているのだ。なんてスマートな作りだ。
そして、仲間が集まったタイミングで物語後半は本格的な部活シーンとなる。顧問作曲の作品に挑むメンバー。しかし、チカは吹奏楽経験がない。彼女がボトルネックになり、演奏クオリティがなかなか上がらない。再度分裂しかける吹奏楽部。王道な展開だが、下手にギャグや恋愛に逃げることなく愚直に音楽と向き合う生徒を映すことで、終盤に向けドンドンボルテージが上がる。
』さながらの壮絶なクライマックス大団円が待ち受けている。決して台詞に頼らない、カット割りと役者の視線だけで心情を描写し、あまりにどうかしているラストに涙した。映画を何百本何千本も観ていると時折、リアリズム原理主義に陥る。なんでもリアリティのある作品を評価しようとしてしまう。しかし、映画はそうでないんだと。映画は魔法なんだと市井昌秀監督は教えてくれた。
目線の映画
市井昌秀監督の『ハルチカ』に惹き込まれる理由をもう少し考えてみよう。市井昌秀監督は相当映画監督に憧れていたのだろう。そしてメチャクチャ勉強したのだろう。本作は先日紹介したジャン=ピエール・メルヴィルの『サムライ
』に近い「目線に拘った作品」だ。前半、ハルタとチカは学校の屋上から、下を見下ろし、「青春」に憧れを抱く。それが、しっかりと終盤全校生徒&教員がハルタとチカを見上げるショットを挟むことで「学校の誰もが憧れる青春像」として昇華させている。多くの青春映画は、下手な感情の吐露をこの終盤の場面で挿入してしまうのだが、それを一切入れない。橋本環奈と佐藤勝利、そして生徒&教師のキラキラした目線だけで表現しているのだ。これにより、凡庸な恋愛映画に陥ることも回避している。ハルタとチカは両想いかもしれない、しかしそれ以上に友情が勝っている。お互いに信頼し合い、音楽によるセッションで感情を絡ませていく。まさに『サムライ』で、ジャン=ポール・ベルモンド演じる殺し屋が、車を盗んで殺しに行き、殺しの現場を人に見られて、捕まってという下りを、台詞なしで目線の動きだけで表現したことに近いものを市井昌秀はやってのけたのだ!
また目線でいったら、タイトルシーンは今年ベストと言っても良いでしょう。全校生徒がまっすぐ校長先生の話を聞いているのに、橋本環奈扮するチカは目線をキョロキョロさせる。そこだけ光が強めにあたっており、そこに「ハルチカ」というタイトルがドンっ!と表示される。これだけで本作がどういった物語なのか、主人公はどんな性格なのかがよく分かる。非常に洗練されたタイトルシーンと言えよう。これも一人だけ目線が違う方向を向いている違和感により、観客に強烈なインパクトを残す映画的手法だ。
日本映画、それもシネコンでかかり、中高生が観るような映画でここまで繊細な演出ができただろうか?私は少なくとも、今ぱっと浮かばない。
『春の光、夏の風』が神曲
youtubeにもアップされているが、未見の方はゼッタイに本作の重要なキーとなる曲『春の光、夏の風』を聴かないで観て欲しい。小出恵介扮する顧問が作曲した曲なのだが、これが実に素晴らしい。まず、いかにも吹奏楽部がコンクールで演奏しそうな曲になっていること。そして、吹奏楽に疎いブンブンですら、金管楽器、打楽器の音が個性を出し合い、段々一つになってくる様が分かる。
そして、滑走路を駆け抜ける飛行機のように、全部の楽器がエンジンをふかしにふかし頂点に達したところで、橋本環奈扮するチカの超絶技巧難パートが展開されるのだ。その難パートが、どんな人でも無茶をしないと突破することの出来ない程クレイジーな箇所。それ故に、橋本環奈の指と口元の震えで、観客は皆「がんばれーーーーーーーーーーー!」とエールを送りたくなる。こんなのを何度もシチュエーション変えて展開されたら、それもあまりに神々しい橋本環奈がやっていたら鼻血が出ない訳がありません。
この曲を立たせる為に、他のシーンではバックに音楽を流さず音の静寂を強調したりと工夫が凝らされているため、余計にこの『春の光、夏の風』が際立ちました。
もう、音楽の使い方一つとっても『リンダ リンダ リンダ』を余裕で超えた傑作だったのだ。なので、今年本作を見逃している人は悪いこと言いません。TSUTAYAで借りて是非この美しき世界に酔いしれてみてください♪
P.S.それにしても…
実は、本作を観て衝撃を受けたことがもう一つあった。非常に個人的話なのだが、橋本環奈がブンブンの妹にソックリだったのだ。ブンブンアイドルや俳優女優に疎いので観るまで橋本環奈が出ていることは気にしていなかったのだが、冒頭橋本環奈が出てきた際、あれっとこの雰囲気誰かに似ている…と思って暫く考えた後に「あっつ俺の妹だ!!!!」と興奮しました。声こそ全く似ていないが、佐藤勝利に対するバイオレントな側面や横顔がクリソツで、もう本作はブンブンの妹が映画に主演していたら…と脳内変化して観ていました….以上報告でした…シスコンですみません…
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