【ネタバレ批評】『箱の中の羊』是枝裕和監督はどうやらAI嫌悪と和解しようとして失敗した模様です

箱の中の羊(2026)

監督:是枝裕和
出演:綾瀬はるか、大悟、桒木里夢etc

評価:30点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された是枝裕和『箱の中の羊』新作。カンヌ期間中はとても評判が悪くSCREEN DAYLYの星評では1.3/4.0を叩き出し話題となっていた。そもそも、ヴィジュアルからして明らかに『アフター・ヤン』であり、『怪物』では『CLOSE クロース』まんまのシーンを入れている前科があるため不安要素しかなかった。しかし、実際に観てみると『アフター・ヤン』よりスピルバーグ『A.I.』をやりたかったようで手術のシーンや中盤以降の展開に露骨な引用が観測された。と同時に、後半の超展開含めて中途半端な出来となっていた。

『箱の中の羊』あらすじ

「怪物」「万引き家族」の是枝裕和監督が、綾瀬はるかとお笑いコンビ「千鳥」の大悟を主演に迎え、亡き息子の姿をしたヒューマノイドを迎え入れた夫婦の物語をオリジナル脚本で描いた長編映画。

少し先の未来。建築家の甲本音々とその夫で工務店の2代目社長を務める健介は、2年前に亡くした息子・翔の姿をしたヒューマノイドを迎え入れることになる。ヒューマノイドが到着した日、翔と同じ笑顔と声をした彼を音々が喜んで迎える一方で、健介は戸惑いを隠しきれず硬い表情を浮かべる。家族の時間は少しずつ動き出すが、やがて予期せぬ事態が起こり、夫婦が息子の死に対してそれぞれ抱えていた想いがあらわになっていく。そんな中、ヒューマノイドの翔はひそかにヒューマノイドの仲間たちとつながりはじめる。

夫婦の亡き息子・翔とその姿をしたヒューマノイド役には、オーディションで200人以上の中から選ばれた桒木里夢を抜てき。音々の妹・小滝亜利寿役で清野菜名、健介が経営する工務店タマケンの従業員・日高玄役で寛一郎、音々の母・西村信代役で余貴美子、タマケンの熟練工・山縣昭男役で田中泯が共演。タイトルの「箱の中の羊」は、サン=テグジュペリの名作小説「星の王子さま」の1節に由来する。2026年・第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。

映画.comより引用

是枝裕和監督はどうやらAI嫌悪と和解しようとして失敗した模様です

時は近未来。息子を失い、ぽっかり心が空いた夫婦の前に息子の姿をしたヒューマノイドが現れる。妻・音々は彼を迎え入れ愛情を注ぎ込む一方で、夫・健介は不気味の谷を超えることができず距離を置いている。ヒューマノイドは食事をしたり風呂に入れないので、彼に配慮するように食事を取らないと言い始めたり、どこか様子がおかしい彼女に対して、夫だけでなく親戚も不信感を抱く。だが、徐々に健介もヒューマノイドで心の隙間を埋めようとしていく。

本作を観ると、是枝裕和監督は典型的なAI嫌いのクリエイターだと思われる。わたし自身、AIコミュニティに入っていたり、仕事でもCopilotを使ってちょっと複雑なExcel関数を組む、翻訳機能を愛用していたりするけれども、note創作大賞をやるようになってからクリエイターとしてAIを嫌悪するようになった。それは著作権とかそういった単純な話ではない。たとえば、ChatGPTに対して「チャッピー」と馴れ馴れしく呼び、ドヤ顔で色々語る人は反吐が出るほど嫌いである。自分の相棒を、デフォルトの愛称で呼ぶ浅さ、語られる話の薄っぺらく本人は自分の思想を反映しているようで、その人の思索の形跡が見えてこない様に気持ち悪さを抱くのです。人間としての歪さこそが面白さだと思っているので、そういう人たちに対しては「凄いですね、そんなことできるのですね」と相手が欲しているであろう反応を適当に設置して距離を置いてしまう。

だが、是枝裕和監督は、クリエイターである映画監督といった側面の位相を建築家にずらし、己の箱の中でこのような嫌悪と対峙させたように思える。AIに惹かれる人の不気味さを前に、時代の流れだからと歩み寄ろうとする。しかし、その過程で人間としての不協和音が発せられ、それとどのように折り合いをつけていくのかを考えていくのである。しかし、この思考実験の結果、恐らく「自分はやっぱりAI信者嫌いだわ」となってしまった。だが、映画の結末としては和解の方に持っていきたい。その歪な考えが終盤に繋がっていく。棄てられたヒューマノイドが人間の感情といった箱から解き放たれたことで、山奥に集落を作ろうとする。その計画は学校で行われるのだが、『光る眼』のようなホラータッチで描かれている。ヒューマノイドたちが人類に対して叛乱を起こす展開になりそうなところを、人間とヒューマノイドが距離を置いて暮らすオチに着地する。内心、ヒューマノイドによる暴力で安易なAI信者を駆逐したかったのではないかと思わずにはいられないのだ。

映画は、是枝裕和監督の苦悩の中で迷走するため、食事をしたり風呂に入れないヒューマノイドの特性や事故か殺人かといった息子の死を巡るミステリーなどといった映画のキーとなり得る要素が放置され、結局のところよくわからない一本に成り果ててしまった。

P.S.タイトルはサン=テグジュペリ「星の王子さま」の有名な話から取られている。映画でも丁寧に引用されるのだが、大人になってから触れると胡散臭いセミナーの人が引用しそうな話だなと思った。相手のニーズに合った羊の絵が描けないから、箱の絵を用意し「この中にあなたの理想の羊がいますよ」って語る手法、確かにそうだけれども本質的に相手のニーズを解決していない。詐欺に近く、現実でも使えて1回だけだし、再現性のないやり方だなと思ってしまった。