キラー・オブ・シープ(1977)
KILLER OF SHEEP
監督:チャールズ・バーネット
出演:ヘンリー・サンダース、ケイシー・ムーア、チャールズ・ブレイシー、アンジェラ・バーネットetc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
シアター・イメージフォーラムにて開催されている特集《チャールズ・バーネット エブリデイ・ブルース》にて『キラー・オブ・シープ』を再観した。「死ぬまでに観たい映画1001本」でも指摘されている通り、アメリカ黒人が抱える人種差別などといった問題を記号的に落とし込むことなくありのままの生活を描いた作品として改めて興味深いものを感じた。
『キラー・オブ・シープ』あらすじ
アフリカ系アメリカ人の日常と人間性を描き、アメリカ映画に静かな革命をもたらした映画作家チャールズ・バーネットが1977年に発表した長編デビュー作。ロサンゼルスの片隅で暮らすアフリカ系アメリカ人労働者の日常を、写実的なまなざしと詩情豊かな映像美で描く。
ワッツ暴動の爪痕が残る1970年代初頭のロサンゼルス、ワッツ地区。スタンは妻と2人の子どもたちを養うため羊の屠殺場で働きながら、空虚な毎日を送っている。日々の労働と貧困のせいで肉体的にも精神的にも疲れ果てている彼は自分の殻に閉じこもるようになり、妻は孤独を募らせていく。
UCLA映画学部の大学院生だったバーネット監督が卒業制作として手がけ、身近な人々を中心とした素人のキャストを集めて地元ワッツで撮影。音楽著作権の問題で長らく公開できなかったが、2007年にアメリカで劇場公開が実現した。25年に完成した4Kレストア版では、ラストシーンを彩る楽曲が、バーネット監督が当初望んでいたダイナ・ワシントン「Unforgettable」に差し替えられた。1981年・第31回ベルリン国際映画祭フォーラム部門にて国際批評家連盟賞を受賞。日本では、特集上映企画「チャールズ・バーネット エブリデイ・ブルース」(2026年2月7日~、シアター・イメージフォーラム)にて、4Kレストア版で劇場初公開。
ポスト・ワッツ暴動の外側で
昨年行われた特集上映「アメリカ黒人映画傑作選」の一本『小さな心に祝福を』同様、ロサンゼルス・ワッツ地区が舞台となっている。ワッツ地区といえば、1965年に蛇行運転していた黒人青年を警察官が尋問したことをきっかけにコミュニティの住人たちが暴動を起こす《ワッツ暴動》の舞台となった場所である。どちらの作品も、いわゆる黒人映画特有の強い問題提起や暴力は息を潜め、間延びした時間の中での諦観に近い質感が広がっている。羊の屠殺場で働くスタンを中心に黒人コミュニティの日常が描かれている。
子どもたちは空き地や線路であり余る体力を持て余し危険な遊びに身を投じている。青年はテレビやら車のパーツを盗んでいる。本作が興味深いのは牧歌的でありながら暴力的でもある世界の中で緊迫、そして抑圧を忍び込ませている点にある。たとえば、酒屋の場面。
とある黒人が小切手を換金しようとする。白人女の店員は、嫌悪の顔で断る。しかし、別の黒人男に対しては性的な眼差しで小切手の換金を承認し、自分の店で働くようスカウトする。アメリカを生きる黒人たちは常に他社からの眼差しに晒される中でサービスが受けられたり、断られたりする様を生々しく描いているのである。そして水道管を整備するボロボロな黒人男性の眼は異様なほどに開いており、社会に対する絶望感が伝わってくる。映画映えしないような実際問題の生活をバキバキにキマッたショットでもって捉えるチャールズ・バーネットの非凡さがうかがえる一本であった。










