『山田くんとLv999の恋をする』実はアロマンティック映画

山田くんとLv999の恋をする(2025)

監督:安川有果
出演:作間龍斗、山下美月、NOA、月島琉衣、鈴木もぐらetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

近年、映画がゲームに歩み寄るケースが増えている。ドキュメンタリー映画界隈では『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』『イベリン 彼が生きた証』『GRAND THEFT HAMLET』のようにゲームの中で撮影された作品が多数制作されている。劇映画でも昨年のカンヌ監督週間in TOKIO2024にて上映された『イート・ザ・ナイト』がネトゲのサービス終了を軸としたギャングものであった。そのため、ゲームを題材にした映画は基本的に観る方針である。

『よだかの片想い』で注目された安川有果監督の新作『山田くんとLv999の恋をする』はマンガアプリ「GANMA!」にて連載された同名コミックの映画化であり、ネトゲ主体の作品になっているということで観てきた。これがドラマ版『電車男』のノリな作品でどこか懐かしさを抱く代物であった。

『山田くんとLv999の恋をする』あらすじ

マンガアプリ「GANMA!」にて連載され、2023年にはテレビアニメ化もされた大ヒット恋愛コミック「山田くんとLv999の恋をする」を実写映画化したラブコメディ。

恋人から別れを告げられたばかりの大学生・木之下茜は、オンラインゲーム「Forest Of Savior」を通じて、超塩対応の高校生プロゲーマー・山田秋斗と出会う。いつもは無愛想なのに、ふとした時に無自覚な優しさを見せる山田に徐々にひかれていく茜。しかし山田は恋愛に興味がないにも関わらず周囲からモテまくってしまうという、恋愛相手として攻略するには最高難度の“強敵”だった。

「うちの弟どもがすみません」の作間龍斗が山田役、「六人の嘘つきな大学生」の山下美月が茜役でそれぞれ主演を務め、シンガーソングライターのNOA、テレビドラマ「からかい上手の高木さん」の月島琉衣、お笑いコンビ「空気階段」の鈴木もぐら、「サマーフィルムにのって」の甲田まひるが共演。「よだかの片想い」の安川有果監督がメガホンをとり、「キャラクター」の川原杏奈が脚本を担当。

映画.comより引用

実はアロマンティック映画

ヒロイン・茜はネトゲ仲間の恋人から降られ、ヤケクソになりながら雑魚狩りをしている。そこへ、アフロ仙人アバターが現れ冷たい眼差しを向けられる。数日後に、ネトゲイベントへ足を運ぶと、口調がアフロ仙人そっくりな存在とエンカウントする。彼こそがそのアフロ仙人であり、高校生プロゲーマーの山田であった。超塩対応系男子の山田に彼女は惹かれていくのだが、想像以上にライバルが多かった。

本作には正直映画的なショットは皆無である。説明的な場面のつるべ打ちで進行していくのだが、やれやれ系男子である山田を中心とし、個性的なキャラクターが右から左から現れ、勝手に自滅していくドライブ感で突き進んでいくため、これが意外にも面白い。空気感はまさしくドラマ版『電車男』である。映画版では、山田孝之演じる電車男のオタクに引け目を抱えているが故に、他者との距離感が分からず、中途半端な場所に突っ立っているが故に宙吊りのサスペンスが生まれる様を的確に叩きこんだ映画的ショットの作品であった。一方、ドラマではキャラクター同士の関係性に力点が置かれており、映画的ショットは皆無ながらも人間関係のわちゃわちゃかんによって惹き込まれるものがあった。本作はその後者にあたる。

酒の飲み方が分かっていない茜の痛々しい姿もそうだが、妹をモデルにネカマをしている者、おじの集まるオフ会に茜を送り込もうとするコスプレイヤー中学生など、山田が冷静に受験勉強できる環境ではないのは明白な地獄絵図となっている。かつて、幕末志士坂本さんのExLove黒歴史を聞いて、ネトゲの世界は怖いなと思っていたのだが、マイルドになったとしても、なかなか強烈な世界となっている。

さて、本作では注目すべき箇所が2点存在する。本作は実はアロマンティック映画に近い内容となっているのだ。山田は、右から左から女が寄ってたかってくるタイプである。ギャルゲーにありがちな「やれやれ系男子」かと思うと、明確に「恋愛に興味がない」と語る。映画を観ていくと、幼少期に女の子が泣いているも、その意図が分からず女性が少し苦手だと語っている場面があり、単に冷たい男というよりかはアロマンティックな存在として描かれているところが興味深い。無論、本作はジェンダー論に踏み込むタイプの映画ではないので、最終的に彼に恋愛感情が芽生えるところで終わる。原作も恐らくそうなんだろう。でも青春キラキラ映画で、アロマンティックを正面から描こうとする意気込みに惹かれるものがあった。

また、本作は映画的なショットが1か所だけそんざいする。それは、空気階段・鈴木もぐらが文化祭の射的で銃を構える場面だ。急に色合いが西部劇となり、今まで温厚だった彼の眼差しがスナイパーの眼に変わる。映画が突然『ワイルドバンチ』に豹変するのである。ここに圧倒された。福田雄一作品には出ない方が良いと思うが、鈴木もぐらの役者としての力を垣間観た瞬間であった。
※映画.comより画像引用