名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN(2024)
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ティモシー・シャラメ、エドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルetc
評価:30点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
公開直前まで知らなかったのだが、ジェームズ・マンゴールド新作がボブ・ディランの映画と聞いて驚いた。男臭いドラマを作るがボブ・ディラン?確かに彼は『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でロカビリー歌手ジョニー・キャッシュの伝記映画を作っているから妥当な人選ではあるのだが、本作のテーマを踏まえるにパブロ・ララインの方が適任だったのではと感じた。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』あらすじ
2016年に歌手として初めてノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランの若い日を描いた伝記ドラマ。「デューン 砂の惑星」「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」のティモシー・シャラメが若き日のボブ・ディランを演じ、「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」「フォードvsフェラーリ」などを手がけてきた名匠ジェームズ・マンゴールドがメガホンをとった。
1961年の冬、わずか10ドルだけをポケットにニューヨークへと降り立った青年ボブ・ディラン。恋人のシルヴィや音楽上のパートナーである女性フォーク歌手のジョーン・バエズ、そして彼の才能を認めるウディ・ガスリーやピート・シーガーら先輩ミュージシャンたちと出会ったディランは、時代の変化に呼応するフォークミュージックシーンの中で、次第にその魅了と歌声で世間の注目を集めていく。やがて「フォーク界のプリンス」「若者の代弁者」などと祭り上げられるようになるが、そのことに次第に違和感を抱くようになるディラン。高まる名声に反して自分の進む道に悩む彼は、1965年7月25日、ある決断をする。
ミネソタ出身の無名のミュージシャンだった19歳のボブ・ディランが、時代の寵児としてスターダムを駆け上がり、世界的なセンセーションを巻き起こしていく様子を描いていく。ボブ・ディラン役のティモシー・シャラメのほか、エドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロ、ボイド・ホルブルックらが共演。第97回アカデミー賞で作品賞をはじめ計8部門でノミネートされた。
このテーマならパブロ・ララインでリクエストしたい
本作は2時間半近くあり、伝説的シンガーソングライター「ボブ・ディラン」の映画だから、そりゃ波乱万丈だろうと思うのだが、トントン拍子で、これといった葛藤が生まれそうなエピソードもなく突き進んでいく。ウディ・ガスリーに会いたい一心で上京するも、彼はもう歌うことができない。そんなウディ・ガスリーの精神を胸に、場数を踏んでいく。だが、どこか空っぽに見えるのだ。歌は人間味あるのだが、当人は空っぽである。そんなボブ・ディラン像を捉えていく。映画は1961年パートと1965年パートに分かれている。後者は、『ドント・ルック・バック 』のボブ・ディランさながら、ファンに押し付けられた理想や政治に対しげんなりしている姿が映し出され、それはニューポート・フォーク・フェスティバルへとぶつけられていくのである。
パブロ・ララインが一貫して描く、偉人が社会から与えられた役割に対する息苦しさと重なる部分がある。もちろん、ジェームズ・マンゴールドは前作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』にてアメリカ映画の「役割を全うする」側面の批判を行っており、その文脈からボブ・ディランを題材にしたのは納得いくものがあるが、いかんせん散文的乱雑さでボブ・ディランの生き様を語り、妙に引き延ばされた上映時間には疑問を抱いた。
とはいえ、パブロ・ララインがニューポート・フォーク・フェスティバルの緊迫を描けるのかといったら、ここは流石にジェームズ・マンゴールドでなければならない部分はある。大学時代、大和田俊之氏によるポピュラー音楽論の授業でロックンロールからロックへ変わる転換期としてボブ・ディランのニューポート・フォーク・フェスティバル事件があったと習った。ビートルズはロックというよりかはアイドル音楽であり、ロックはここから始まったんだ的なことを聞いて、当時はピンと来なかったのだが、本作を観ると確かに時代の転換期を感じた。
定義された「フォークソング」の域に収まり切れなくなったボブ・ディラン。しかし、世間は「風に吹かれて」を求めている。政治的にもボブ・ディランは聖人化されており、自由を求めて音楽を手にしたのに、音楽に真綿を詰められているような状況となる。そんな彼が、大衆に対して革命を起こす。エレクトリック・ギターを持ち観客を裏切るのである。そうか、こういうことだったんだと10年越しに腑に落ちたのであった。
※映画.comより画像引用