The Seed of the Sacred Fig(2024)
監督:モハマド・ラスロフ
出演:ミサ・ザレ、ソヘイラ・ゴレスタニ、マーサ・ロスタミ、セタレ・マレキetc
評価:95点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第77回カンヌ国際映画祭新作が選出されるも、イラン政府から有罪判決を受けたモハマド・ラスロフ監督はスタッフと共に国外脱出し28日間かけてカンヌにたどり着く。そして特別賞を受賞した。
そんな彼の監督新作『The Seed of the Sacred Fig』が2025年2月14日(金)に日本公開が決まった。試写にて一足早く観たのだが、驚かされた。モハマド・ラスロフ監督作は苦手意識があったのだが、本作は年間ベストに入れたいほど映画的技巧でもってイラン社会の凄惨さを訴えかけるものとなっていたのである。
『The Seed of the Sacred Fig』あらすじ
Investigating judge Iman grapples with paranoia amid political unrest in Tehran. When his gun vanishes, he suspects his wife and daughters, imposing draconian measures that strain family ties as societal rules crumble.
訳:テヘランの政情不安の中、パラノイアと闘う捜査判事イマン。自分の銃が消えた時、彼は妻と娘たちを疑い、社会のルールが崩れる中、家族の絆を緊張させるような強権的な手段を取る。
拳銃が消えた!
パラパラと銃弾が机に置かれ、サインをする。ハリボテの人が立ち並ぶ廊下を男は歩いていき帰宅する。イマンは20年間真面目に働いてきたことが功を奏し裁判所の調査官へと任命されるのだ。しかしながら、喜ぶのは早い。就任早々、ボスからの命令に違和感を抱いた彼は同僚に「これはちゃんとやった方がいいですよ」とアドバイスをするのだが、彼がスッと紙を渡す。
「盗聴されている」
エリートである彼の仕事の前には無数にも「なれなかった人」がいる。ボスは友好的ではないらしい。また、裁判所の結果に不服を抱いている人もいる。つまり、少しの隙を狙ってイマンの信頼を失墜させようとする人があらゆる場所に潜んでいるのである。
プレッシャーに押しつぶされそうな彼を労るように妻は娘たちを抑圧しようとする。ただ、その娘たちはスマホをVPN接続してヘジャブ”めぐるデモの様子を見ようとしている。社会問題にコミットしようとしている友人を家に連れて来た娘に対して母親は遠ざけようと説得を試みる。
映画は大小の修羅場や対立が波打ちヒリついた人間関係を描いていく中でその中でイマンは国家の犬として冷徹な人間へと成長していく。そんなある日、特大の事件が発生する。
拳銃が消えた……
イマンが仕事で使う拳銃が家から消えてしまうのだ。これが本部にバレたらイマンが長年積み上げて来た信頼貯金が0になるどころか3年の懲役を食らうことになる。果たして彼らの運命は如何に?
『The Seed of the Sacred Fig』は対立する家族が次々と現れる修羅場によって議論し合い、時には国家に飲み込まれた態度を取りながらも、絆が結ばれる瞬間を描いており、その映画的結びでもってイラン社会の複雑さもとい人間の複雑さを捉えようとしている。たとえば、娘の友人に否定的だった母が、行方不明になるフェーズでは、わざわざ判事になれなかった夫を持つ妻へ相談を持ち掛けたりする。周囲との関係に敏感でありながらも時として詰めの甘さが露呈することで宙吊りのサスペンスが生まれるのである。
終盤は本格的なアクション映画へと化けており、冒頭の机にパラパラとまかれる銃弾のアクションが大きな落下へと繋がるような導線が引かれたり、閉じ込める/閉じ込められるの関係性を畳みかけた痛ましきアクションを構成している。
これこそ第77回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞すべき作品だったのではないだろうか。