オーガスト・マイ・ヘヴン(2024)
August My Heaven
監督:工藤梨穂
出演:村上由規乃、諏訪珠理、藤江琢磨etc
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第74回ベルリン国際映画祭に工藤梨穂新作短編映画が出品された。本作は黒沢清『CHIME』同様、Roadsteadのプロジェクトであり、専用プラットフォームからブロックチェーンを用いた上映権を含むデータを購入することができる。映画会社でなくても、一定の販売期間が過ぎたら、販売することが可能になるそうだ。10月にジャン=リュック・ゴダールの遺作『シナリオ』がこのシステムで販売されるらしいので練習で使ってみた。決済システムのメンテナンス等で数日苦戦したものの購入し観ることができた。限定500本なのだが、好きなナンバーのデータを購入できるそうで、私は#404(Not Found)を購入してみた。事前情報だと、Roadsteadの通信は遅いと聞いていたのだが、Festival Scope Proよりかは良いといった印象を受けた。ただし、映像を巻き戻しする際には、再ロード処理が入るのか1分ぐらい待つ必要がある。及第点なシステムだと感じた。
『オーガスト・マイ・ヘヴン』あらすじ
とある街で代理出席屋をしながら暮らしを営む女・城野 譲(村上由規乃)。代理出席屋とは、依頼人の親族や恋人、友人などを演じて冠婚葬祭や人が集まる場所に出席する代行業のことである。譲の行きつけの中華料理屋の店員・三枝南平(諏訪珠理)は、そんな彼女に思いを寄せていた。8月のある日のこと。代行の仕事で葬儀場に訪れた譲は、いつか夢でみた見知らぬ男・長谷薫(藤江琢磨)にそこで出会ってしまう。日を同じくして、中華料理屋で抱き合う南平と薫。薫は五年もの間失踪していた南平の親友だったのだ。彼の無事を喜ぶ南平に「恩師の葬儀で “いづみ” に再会できた」と言う薫。しかし、そこに現れた女は彼らの旧友・いづみになりすました譲だった。彼女と10年ぶりの再会を果たしたと思い込み嬉々とする薫に、ある真実を言い出せない南平は、「彼と別れるまでいづみのなりすましを続けてくれないか」と譲に依頼する。そうして彼らはそのまま刹那的な旅に出るが…。
誰かの手触りを求めて
工藤梨穂監督は『裸足で鳴らしてみせろ』、『オーファンズ・ブルース』と誰かのいた形跡を色彩豊かで柔らかい質感の画によって掬い上げていく傾向がある。誰かのいた形跡といえば、我々は廃墟を連想するのだが、そうした翳りは回避しようとしており、確かに『オーガスト・マイ・ヘヴン』でも廃コインランドリーにタイムカプセル的役割を与える描写はあれども、恍惚とてらされるトンネルや草原を彷徨う描写へシフトしている。
本作において、注目すべきショットは葬式での再会シーンだろう。全員が一礼する直前に、肩をポンポンと叩き、それが阻害される。これにより男と女だけの空間が生まれる。続け様に、酢豚が落下するショットを交えることで再会を連鎖反応させ、動き出す運命の歯車が強調される。再会はどうしても、安易な言葉を使えば「エモい」場面となり、それだけで押し切ってしまう例もあるが、確かなショットの技術で空間を理論へ落とし込んでいく。改めて、工藤梨穂監督は信頼できるなと思った。
短編であり、行間が多い作品なので、2時間の枠で観たかったのだが、これはこれで良かったといえよう。