『劇場版モノノ怪 唐傘』構造的パワハラのアニメ表現

劇場版モノノ怪 唐傘(2024)

監督:中村健治
出演:神谷浩史、黒沢ともよ、悠木碧、小山茉美etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

予告編で気になっていた『劇場版モノノ怪 唐傘』を観てきた。本作は2007年にテレビアニメシリーズとして放送されたアニメの劇場版とのこと。アニメから随分経つのに映画化されていることにも驚きだが、なんといっても和紙に描かれた日本画テイストのタッチが色彩豊か、ぬるりと動く様にただ者ではないものを感じていた。ただ、実際に観てみるとヴィジュアルだけの作品でないことが分かった。なんとパワハラ問題を扱った作品だったのだ。早速レビューを書いていく。

『劇場版モノノ怪 唐傘』あらすじ

2006年にフジテレビの「ノイタミナ」枠で放送されたオムニバスアニメ「怪 ayakashi」の一編「化猫」から派生し、07年にテレビアニメシリーズとして放送され話題を集めた「モノノ怪」の劇場版。江戸時代をモチーフにした世界を舞台に、主人公の薬売りがさまざまな怪異に対峙する姿を描く和製ホラーアニメ。

男子禁制の“女の園”であり、重要な官僚機構でもある場所・大奥。この場所でキャリアアップを図ろうとする新人女中のアサと、同じく新人女中で大奥に夢を求めるカメは、着任早々、集団に染まるための“儀式”に参加させられる。御年寄の歌山は大奥の繁栄と永続を第一に考えて女中たちをまとめあげるが、無表情な顔の裏に何かを隠している。そんな中、彼女たちを少しずつ“何か”が覆っていき、ある日決定的な悲劇が起こる。モノノ怪を追って大奥の中心部まで足を踏み入れた薬売りは、やがて大奥に隠された恐ろしくも切ない真実にたどり着く。

主人公・薬売りの声を人気声優の神谷浩史が演じるほか、3人の女中役で黒沢ともよ、悠木碧、小山茉美が声の出演。シリーズの生みの親である中村健治がテレビ版に続いて監督を務めた。

映画.comより引用

構造的パワハラのアニメ表現

本作は大奥に入るふたりの女性を中心にパワハラ問題を扱っている。大奥に入る者は、最初に「捨てる」アクションを行わさせる。それによって組織の一部にさせられる。アニメならではの表現として、個ではなく組織の一部として見放された者の顔は渦巻となっており奥なる存在へと追いやられている。厳しい大奥に入る二人。方や仕事ができる女で方や無能な女。後者は、無能である一方自由な振る舞いで目立ってしまい、先輩上司に詰められるようになる。それを前者が庇おうとするのだが、ギスギスした空気が収まることはない。そこへ薬売りが現れ「モノノ怪がいる」と敷地内を徘徊するようになる。

パワハラ問題は意地悪な個によってもたらされるように思えるが、実際には組織の体制によって個の性格が歪められているのではないか?加害者を排除したとしても、構造を改善しなければ再発してしまう。これをアニメとして表現している。実際に加害者はモノノ怪に吸収される形で消滅してしまう。仕事ができる者が段々と心を捨てていき、その中で暴力が生まれることを自由自在な画の洪水でもって描き切る。こういった問題提起の方法があるのかとひたすら関心し、気が付けば映画が終わっていた。これは海外の大きな映画祭でコンペティションに選出されてもおかしくない作品であろう。驚きの一本であった。

※映画.comより画像引用