『成功したオタク』脆きアイドル信仰との向き合い方

成功したオタク(2021)
原題:성덕
英題:Fanatic

監督:オ・セヨン

評価:60点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

推しに認知され「成功したオタク」であったものの、彼が性犯罪で逮捕されたことで「失敗したオタク」となった者が不安定な実存と向き合うために撮った本作。まさしく「推し、燃ゆ」の世界が等身大の形となって観客に提示された本作は、単なるお気持ち表明でもなく、かといってアイドルを擁護する二次加害的作品でもない。私は対象のアイドルのことは疎いのだが、現代宗教としての「アイドル」と旧来的宗教の差が突き付けられる作品に感じた。

『成功したオタク』概要

韓国芸能界を揺るがせた性加害事件を背景に、「推し」が犯罪者になってしまったファンの人々にスポットを当てたドキュメンタリー。

あるK-POPスターの熱狂的なファンだったオ・セヨン監督は、「推し」に認知されテレビ共演も果たした“成功したオタク”の1人だった。ところがある日、その人物が性犯罪の加害者として逮捕されてしまう。“犯罪者のファン”になってしまった彼女は受け入れ難いその事実に苦悩し、同じような経験をした友人たちに話を聞くことに。

「推し活」が人生の全てだったセヨン監督が自身の過去を振り返って傷を直視するとともに、「自分は被害者なのか加害者なのか」「かつて彼を思って過ごした幸せな時間までも否定しなくてはならないのか」などと葛藤するさまざまな立場のファンの声を聞いて語り合い、その社会的意味を考える。

映画.comより引用

脆きアイドル信仰との向き合い方

監督は逮捕されたアイドルに対してモヤモヤを抱え、カメラを持って旅に出る。推しに大学受験を応援され、それを原動力にソウル大学に合格した。自分の生活の一部であったアイドル像が突如瓦解する。同じ境遇の者と対話を重ねるが、すぐには彼の加害に向き合えず、推し活について語り合う。「もう推しは作らない」と宣言する一方で、アイドルの加害が表出してもなお推し続ける者に疑問の眼差しを向け続ける。映画は二次加害性を出さないように、擁護派の意見を提示することはない。だが、ヒリついたカメラの眼差しには「嫉妬」の痕跡がべっとりとついている。そして、カメラは興味深いことに大統領を応援する人々へと向けられていく。

これらを踏まえると、宗教や信仰のレイヤーが見えてくる。従来のキリスト教や仏教徒いった宗教は、特定の実活動をしている者を示さない形而上の観点から思想を形成し人々を導いていく。そのため、特定個人の悪行が宗教を瓦解するまでの威力を持つことはない。また、大統領の場合も「国家」といった地盤があるから簡単には瓦解しないであろう。しかし、アイドルの場合はどうだろうか?アイドル個人が新興宗教の祖のように人々を導く思想を提示することは少ないように思える。アイドル個人の自分らしさを提示し、それが正面からビジネスと紐づく形で信仰されているように思える。そのため、個人の活動が犯罪に転がる可能性がある。そして、正面からビジネスと結びついているため、個人が金にならないとなったとたん冷徹に社会から抹消されるのである。そして、アイドルを信仰することは特定個人に身をゆだねることでもあるので、瓦解と共に実存の危機に陥る。

現代では、キリスト教や新興宗教といった「宗教」の多様化が進み、「推し活」が社会的地位を得た一方で、特定個人に崇拝の眼差しが向けられ、その視線の先には脆い地盤があると思うと「アイドル」は難しい存在だなと思った。

閑話休題、映画は確かにマッコリの場面を含め無駄が多いように思え、また論点がフワッとしており拙いのだが、先日のとあるお笑い芸人に対する粘着質なブログ記事のようなお気持ち表明で終わっていない作品だったので好感を抱いたのであった。
※映画.comより画像引用