『アミューズメント・パーク』楽しさの渦中で迫害される者たち

アミューズメント・パーク(1973)
The Amusement Park

監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:リンカーン・マーゼル、Harry Albacker、フィリス・キャスターワイラー、Pete Chovan、マリオン・クックetc

評価:90点



おはようございます、チェ・ブンブンです。

私はYouTubeでシミュレーションゲームの実況動画が好きである。のばまんさんが遊園地に人々を監禁する動画であったり、ハヤトの野望チャンネルで市民に汚水を飲ます動画に思わず笑ってしまう。なぜ、この手の動画が面白いのだろうか?

1.擬似的に上位存在になれる快感が味わえる
2.上位存在になるにはセンスが必要

と2つの要素が影響していると私は考えている。昨今の凄惨な社会情勢や政治は、政治家や国家によりもたらされているわけだが、革命は起こらない。確かにデモ等の運動は行われるが、形成逆転することは稀であり、上位存在によって蹂躙されているような気分になる。シミュレーションゲームにより人々を地獄へと陥れていく動画は、こうした革命が起きない状況下において、擬似的に上位存在になれる快感を与えてくれるのである。しかし、それだけなら自分でゲームをプレイした方が良いのではないだろうか?この手の動画に一定のニーズがあるのは、上位存在になるにはセンスが必要なのである。街などをどれくらいの規模で発展させ、どのように破滅させていくのか、自由が与えられているからこそ、その自由で何ができるのかを考える必要がある。そして、多くの人はその自由を使いこなすことができずに、不自由を抱いてしまう。だからこそ、上位存在として自由を使いこなしている人の動画は、できないことを代理でやってみせるYouTubeの特性も作用しニーズを勝ち得ているのである。

なぜ、突然そんな話をしたのか?

それは映画のような創作でも同様のことがいえるのである。物語を紡ぐことは誰しもできる。しかし、面白い話を作り込むにはセンスが必要なのだ。

『ゾンビ』で知られるジョージ・A・ロメロ監督は素人の役者と遊園地だけで、のばまんさんやハヤトの野望チャンネルに匹敵する不条理な搾取の物語を紡いだ。今回はそんな傑作『アミューズメント・パーク』についてレビューしていく。

『アミューズメント・パーク』あらすじ

「ゾンビ」のジョージ・A・ロメロ監督が1973年に手がけたものの、半世紀近くも幻の未発表作品となっていた長編映画。ある老人が遊園地で一日を過ごそうとするが、いつしか悪夢のような状況に追い込まれていく様が描かれる。年齢差別や高齢者虐待についての世間の認識を高めるためにルーテル教会がロメロに依頼して製作された作品だったが、老人の悲惨な状況が容赦なく描かれており、当時のアメリカ社会をストレートに描いた内容から依頼主がおののき、そのまま封印されて長らく未発表となっていた幻の一作。老人役をロメロ監督の「マーティン 呪われた吸血少年」にも出演したリンカーン・マーゼルが演じた。2018年に発見されて4Kレストアが施され、2021年10月に日本でも劇場公開。

映画.comより引用

楽しさの渦中で迫害される者たち

白い空間の中、朽ち果てた老人と紳士的な老人がいる。紳士的な老人は朽ち果てた老人の「行くな!」といった警告を振り払い扉を開ける。そこは遊園地であった。遊園地は楽しいイメージがあるが、どことなく不気味である。換金所では老人たちが家財を売り、二束三文の値に文句を垂れている。乗り物には、様々な制限が設けられていて、多くは老人に対応していない。にもかかわらず、老人たちは様々な場所でチケットや現金を搾取されていく。地獄のような遊園地を紳士的な老人は、「紳士的な」態度でもって彷徨い歩く。一方で、傍観者として老人へ眼差しを向けていた彼も当事者へとなっていく。野外レストランで注文しようとするも、富豪が食べていたような料理は提供されない。店で買い物をし、荷物が多いものだから助けを呼ぼうにも誰も相手にしない。まるで自分が見えてないかのように扱われてしまうのである。

本作は遊園地を社会と定義し、社会の中にいながらも社会の外側へと追いやられてしまう様をグロテスクに風刺しているのだ。実際に、ゴーカートを使った場面での風刺が秀逸なものとなっている。ゴーカートで老夫婦が接触事故を起こす。そこへ警官が現れて事情聴取をする中で、老人はなぜ保険料を高く払わないといけないのかが説明される。あまりに可哀想だからと主人公が目撃者として証言するのだが、メガネをかけてないことを指摘され、信頼できない証言として処理されそうになるのだ。社会にコミットできずにひたすら面倒な存在として扱われる様がここで的確に描かれるのである。

さらに興味深いのは紳士的な老人は「自分は大丈夫」だというプライドが行動の原動力となっているところにある。老人が入れる数少ないアトラクションが劣悪な老人ホームとなっているわけだが、俺は他の老人とは違うという反発心から抜け出してしまう。しかし、気がつけば他の老人と変わらぬ状況へと追いやられている。この気付かぬうちに同化してしまう恐怖は『ゾンビ』映画を数多く手掛けてきたジョージ・A・ロメロ監督の手腕光る演出といえよう。実に素晴らしい地獄であった。

※映画.comより画像引用