『マリア 怒りの娘』燃えかすから現れた少女は歩き続ける

マリア 怒りの娘(2022)
原題:La hija de todas las rabias
英題:Daughter of Rage

監督:ローラ・バウマイスター
出演:アラ・アレハンドラ・メダル、バージニア・セビリア、カルロス・グティエレス、ノエ・エルナンデス、ダイアナ・セダノetc

評価:75点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

2024年は珍しい国の映画が公開される。それはニカラグアだ。ニカラグアはソモサ将軍による長い独裁政権、内戦、ハイパーインフレーションによる経済低下で映画産業が育たず映画があまり作られてこなかった国である。そんなニカラグアで初めての女性監督作品が誕生した。それが『マリア 怒りの娘』である。監督のローラ・バウマイスターは1983年生まれ。国内に芸術を学べる場所がなかったので、一度は社会学を専攻する。やがて彼女はメキシコへ渡り、国立映画大学で映画の勉強をする。2014年に制作した短編『Isabel Im Winter』が、カンヌ国際映画祭批評家週間で上映され話題となる。そんなローラ・バウマイスターは今回ニカラグアで初の長編作品撮影に取り組んだ。映画産業の基盤がない中で試行錯誤しながら撮った『マリア 怒りの娘』はどんな作品なのだろうか?日本では2024/2/24(土)よりユーロスペースで公開ですが、試写で一足早く鑑賞させていただいたので感想を書いていく。

『マリア 怒りの娘』あらすじ

中米ニアカラグアの首都マナグアに実在する巨大なゴミ捨て場ラ・チュレカを舞台に、ある日突然母の不在に直面した少女の姿を描いたドラマ。

美しい湖のほとりにあるゴミ集積場の近くで、母と一緒に貧しいながらも幸せに暮らす11歳の少女マリア。母は飼い犬を売って生活費の足しにしようとするが、不意の出来事により失敗してしまう。母はトラブルを解決するためマリアをリサイクル施設に預けて街へと向かったものの、何日経っても戻ってこない。戸惑い、混乱し、言葉にならない怒りを募らせたマリアは、母に会いたい一心で施設を抜け出すが……。

独裁政権や内戦が続いた影響で映画産業が発達せず、これまで製作された映画はわずか数本というニカラグアで久々につくられた長編映画。同国出身でメキシコで映画制作を学んだ女性監督ローラ・バウマイスターが長編初メガホンをとり、世界各地の映画祭で高く評価された。

映画.comより引用

燃えかすから現れた少女は歩き続ける

美と汚が共存する独特な空間から物語は開けていく。陽光差し込むゴミ山、山頂から車が現れる。ゴミでできた汚い大地、その奥には美しい海と山が広がっている。土埃が舞う。不気味に、いや神秘的に子供たちがむっくり起き上がり、ゴミの山を漁っていく。少女マリアは、残飯を見つけたようだ。腹を空かせた飼い犬に与える。しかし翌日、犬はぐったりしてしまうのである。実はその飼い犬は生活費のために売る予定だったのだ。運悪く引き取り手が現れトラブルに発展する。そしてそのまま母は行方不明となってしまう。

本作は孤独な少女マリアがひたすら不安定なニカラグアの地を歩んでいく様子が描かれている。たくましく、不条理と立ち向かい、時には大人に抗議しながら前へと進む。そんな彼女の前に老婆が現れるのだが、その優しい目から放たれる強烈なセリフに涙した。

「やり直すために燃やすのだよ」

燃えようがないようなゴミ山から現れた少女。やり直すために燃やすこともできない。それでも生きるために前へと進むしかない。このような残酷な現実を優しい言葉で突きつけてくるのだ。なんて恐ろしい映画なんだと思った。

日本公開は2024/2/24(土)ユーロスペース他にて。

是非ウォッチしてみてください。

【お詫び】


『マリア 怒りの娘』はニカラグア初の女性監督作品と語りましたが、有識者の済東鉄腸さん曰く他にもいる(Gloria Carrión FonsecaやLeonor Gutierrez)とのことでした。訂正します!
※映画.comより画像引用