【A24】『Dream Scenario』みんなの夢の中にニコラス・ケイジ

Dream Scenario(2023)

監督:クリストファー・ボルグリ
出演:ニコラス・ケイジ、ジュリアンヌ・ニコルソン、マイケル・セラ、ティム・メドウス、ディラン・ゲルラ、ディラン・ベイカーetc

評価:50点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

承認欲求をグロテスクな形で表現した怪作『シック・オブ・マイセルフ』で一躍注目を集めたクリストファー・ボルグリ監督の新作はA24映画。『ボーはおそれている』のアリ・アスターがプロデユーサーに加わり、夢の中にニコラス・ケイジが現れる世界を描く。そんな『Dream Scenario』を2023年最後の映画として締めくくった。これが問題作であった。

『Dream Scenario』あらすじ

A hapless family man finds his life turned upside down when millions of strangers suddenly start seeing him in their dreams. When his nighttime appearances take a nightmarish turn, Paul is forced to navigate his newfound stardom.
訳:しがない家庭的な男が、何百万人もの見知らぬ人々が突然夢の中で彼を見始めたとき、彼の人生がひっくり返ることに気づく。彼の夜の姿が悪夢のような展開になったとき、ポールは新たなスターダムに乗ることを余儀なくされる。

IMDbより引用

みんなの夢の中にニコラス・ケイジ

『シック・オブ・マイセルフ』が承認欲求に溺れ、他者からの眼差しを得るために顔がぐちゃぐちゃになっても平気でいようとする人の話であった。対して『Dream Scenario』は一般人が突如、制御不能なほどに眼差しを注がれる作品である。大学教授として平凡な日常を送る男(ニコラス・ケイジ)。しかし、生徒がチラチラ自分のことを見て何かを語っていたり、初めて会った人に「以前、お会いしましたかね?」と訊かれたりと妙なことが続いていた。やがて、いろんな人の夢に自分が現れることが発覚。ネットで大バズりし、テレビ取材に本の出版に忙しくなる。

一見すると、ここから映画は大きな盛り上がりを見せるように思える。しかし、観客の予想と反して地味な日常が続くこととなる。想定される、好意が敵意に変わり襲われるといった描写も比較的おとなしめであり、まるでゾンビのようにじっとりゆっくりとしたペースで男を追い詰めるものとなっている。実は本作は、社会の中でバズが起きた時に当事者が蚊帳の外に置かれる様子を風刺した作品として仕上げているのだ。取材を受けたり、本が出版されたりするも、彼の人生が劇的に変わるわけではなく生活に騒めきが生まれるだけとなっている。

しかも、他者の夢に自分が現れる。その夢はコントロールできないので、勝手に恨みを買われて殺されそうになることもあるのだ。本作はネットのバズと夢をリンクさせることで、その関係性を紐解いている。ネットも一度拡散されたら自分で止めることができない。たとえ、誤ったことが拡散されて恨みを買われても自分で止めることはできないのだ。

クリストファー・ボルグリの『シック・オブ・マイセルフ』と地続きにあるSNS理論は興味深いと感じる一方で、プロデューサーであるアリ・アスターの横槍の気配を強く感じ問題である。『骨』の時もそうだが、アリ・アスターがプロデュースに加わると作家性に「アリ・アスター」のラベルを貼ってしまう。特に本作はそれが強く、『ボーはおそれている』の二番煎じともいえる画に仕上がっていたのがあまりにもったいないと感じた。なので興味深く見つつも、あまり良い評価ができないのだ。

※IMDbより画像引用