どうすればよかったか?(2023)
What Should We Have Done?
監督:藤野知明
評価:95点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
山形国際ドキュメンタリー映画祭日本プログラムで統合失調症に関する作品『どうすればよかったか?』を観た。本作は、『とりもどす―囚われのアイヌ遺骨―』や『アイヌプリ埋葬・二〇一九・トエペツコタン』とアイヌに関するドキュメンタリーを作ってきた藤野知明監督が、統合失調症を患った姉と家族を撮ったものである。20年以上に渡り撮影を行い昨年、姉が亡くなったことで本作は完成した。事前に、知人からこのドキュメンタリーは凄まじいぞとうかがっていたのだが、想像以上に壮絶な内容であった。
『どうすればよかったか?』概要
1983年、当時24歳の姉に統合失調症の症状が現れた。しかし両親はそれを認めず、精神科を受診させることなく姉は家に引き籠った。やがて両親は玄関に南京錠をかけ、姉の外出を阻止するようになった。両親の態度を疑う弟は、その責任を問うためにキャメラを回し始める。20年以上にもわたる家族の葛藤。
統合失調症と向き合った数十年間
この世のものとは思えぬ絶叫が黒画面の中、木霊する。「これは統合失調症の原因を究明するものではありません。」といった注意書きが提示され、タイトル「どうすればよかったのか?」が表示される。いきなり、ドスンと観客の心に重い問いがのしかかり映画は始まる。姉は大学在学中に統合失調症を発症し、夜な夜な叫び暴れ回るようになる。弟である藤野知明は身の危険を感じていた。やがて自分の心を整理するようにカメラを持って家族を撮り始めた。父親は、医者である。それ故に、自分の力で姉を治そうとする。他の専門家に診てもらうことを拒絶する。母親は、家に南京錠をかけ、10ヶ月近く姉と共に引き篭もる。そんな両親を説得しようとしても焼け石に水。全く話を聞こうとしてくれない。両親は、今の状態で健全であるように装うがカメラは確実に家族の崩壊を捉えていく。父は頭部を負傷し、姉の部屋は電気が落下している。リビングはゴミ屋敷と化してしまうのだ。
なんとか、医者に診せてもらう。彼女に合う薬が見つかりあっさりと落ち着きを取り戻す。会話が成立するまでに回復するのだ。そこから、家族を恨むようにカメラという銃を向けていた藤野知明の心に変化が訪れる。姉が幸せに暮らせるようにと歩み寄り始めるのだ。一方で、これだけあっさり快方に向かっただけあって、20年間自力で彼女を治癒しようとした両親には疑問が残る。「あなたの行いは正しかったのか?」「どうすればよかったか?」といった問いを抱えながら、引き続き家族を捉えていくのである。両親は本心を語らない。はぐらかすばかりだ。しかし、最後の最後で父親に問いを投げかける。すると意外な言葉が返ってくるのである。
『どうすればよかったか?』は監督自身のセラピーであると共に、右にも左にもいけない状態でどのように前へと進んでいけば良いのかを描いている。地獄のような家族の崩壊の末にあるカタルシス。まるでダンテ「神曲」のような壮絶な物語であった。
※山形国際ドキュメンタリー映画祭サイトより画像引用