サザエさんの脱線奥様(1959)
監督:青柳信雄
出演:江利チエミ、雪村いづみ、柳家金語楼、小泉博etc
評価:40点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
先日、美容室の兄ちゃんと話をしていたら、自信ありげに「サザエさんって実写化されてなくてさ」と語るもんだから、流石に「アニメ化前に10本近く実写化されてまっせ」と返してしまった。しかし、無理もない。つい最近まで、鑑賞することがほとんどできなかったのだから。江利チエミ主演の東宝版サザエさんは、何年か前に日本映画専門チャンネルで放送されたくらいで、今までソフト化もされていなかった。また、日本映画史においても公開当時から軽視されており、興行収入では全てベストテン圏外となっている他、キネマ旬報選者の間でも本シリーズはほとんど無視されている。唯一『サザエさんの脱線奥様』だけが33位になる程度であった。また、サザエさんの専門書でも全く扱われておらず、忘れられたシリーズとなっていたのだ。
しかしながら、本シリーズではノリスケを仲代達矢が演じているほか、脚本を手がけた笠原良三は社長シリーズやクレイジーキャッツシリーズ、若大将と日本娯楽映画史に残る作品を生み出してきた人物。サザエさんには、これらの作品のエッセンスが見え隠れするのである。さらには、主演の江利チエミの歌唱力が凄まじく、1作目の冒頭では、スペイン語からシームレスに日本語へと切り替えていく高等テクニックが見られる。
今、そんなサザエさん実写シリーズがAmazon Prime VideoやU-NEXTで観られるのだ。これは再評価のタイミングだと思い、私も追ってみることにした。
今回、取り上げる『サザエさんの脱線奥様』はシリーズ第7作目である。サザエさんがマスオと結婚し、転居生活を始めて間もない頃を描いている。どこか、『男はつらいよ』中期を彷彿とさせる内容だ。早速中身について書いていく。
『サザエさんの脱線奥様』あらすじ
江利チエミ主演・サザエさんシリーズ第7作。社宅だが、新居ができたマスオ、サザエ夫婦。ようやく始まった新婚生活を2人は楽しんでいた。新婚祝いのお礼にマスオの同僚を招待するが、肝心のマスオがなかなかこない。マスオは、花村専務から関西出張を言い渡されていた。やがて、サザエのもとにマスオから「出張が長引きそうだから、大阪に来い」と連絡が届く…。
子どもを授からなければ罰せられるディストピア
サザエさんがナレーションにツッコミ、「映画を観て、観客に判断してもらいましょう」と第四の壁に語りかける。フランク・タシュリン映画のような、メタギャグから始まったと思いきや、ギャグの連鎖までフランク・タシュリン的である。カツオがサザエさんの背中に、張り紙を貼ったことから追いかけっこが始まる。カツオを見つけるのだが、彼から柿をもらう。すると、サザエさんが柿泥棒だと疑われる。追う/追われるの連鎖の末、波平がサザエさんの一撃によって負傷するのだ。ギャグによって物語を推進させていく作劇はよくできており面白い。
一方で、前日に『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』を観たせいもあるのだが、1950年代の誇張された人と人との間合いの取り方が強烈でキツいものを感じる。特に、おっさんが家にあがり込む場面。子どもは授かったのか?と訊かれて、「いえ」とサザエさんが答えると、急に「けしからん」とキレ始めるのだ。そして、おっさんは家に居座り夫婦の寿司を図々しく貪り食うのである。全体的に、女性は社会の中であるべき姿に押し込められており、そこから逸脱するサザエさんを笑い飛ばすみたいな風潮が強い。一作目はさほど気にならなかったのだが、本作は出産に対する圧が強烈すぎて一旦、横に置いて考えるべきなのだが、耐え難いものがあった。
とはいえ、ギャグの連鎖反応だけはめちゃくちゃ良いので、そこは評価したいところである。
※U-NEXTより画像引用