【ネタバレなし】『レジェンド&バタフライ』総天然色に血塗られた骸たち

レジェンド&バタフライ(2023)
The Legend & Butterfly

監督:大友啓史
出演:木村拓哉、綾瀬はるか、宮沢氷魚。市川染五郎etc

評価:70点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、映画関係の集まりで「ブンブンさんの感想が知りたい」とリクエストをいただき『レジェンド&バタフライ』を観てきた。正直、織田信長の映画らしい、キムタクと綾瀬はるかが出ている映画らしいぐらいしか知らずに観た。ネタバレ厳禁問題作だと言われていただけにてっきり『幕末太陽傳』幻のエンディングみたいにセットからキムタク演じる織田信長が飛び出し現代に流れ着くとか、かぐや姫みたいなSFになっているのかと思ったのですが、そこまでぶっ飛んではいませんでした。問題と思しき部分は配信にて別の映画を例に語ったのでそちらを参考にしていただきたい。

『レジェンド&バタフライ』あらすじ

木村拓哉と綾瀬はるかの共演で織田信長と正室・濃姫の知られざる物語を描く、東映70周年を記念して製作された歴史大作。

格好ばかりで「大うつけ」と呼ばれる尾張の織田信長は、敵対する隣国・美濃の濃姫と政略結婚する。信長は嫁いで来た濃姫を尊大な態度で迎え、勝ち気な濃姫も臆さぬ物言いで信長に対抗。最悪な出会いを果たした2人は、互いを出し抜いて寝首をかこうと一触即発状態にあった。そんなある日、尾張に今川義元の大軍が攻め込んでくる。圧倒的な戦力差に絶望しそうになる信長だったが、濃姫の言葉に励まされ、2人は共に戦術を練って奇跡的な勝利を収める。いつしか強い絆で結ばれるようになった信長と濃姫は、天下統一へと向かって共に歩み出す。

映画「るろうに剣心」シリーズの大友啓史が監督を務め、「コンフィデンスマンJP」シリーズの古沢良太が脚本を手がけた。

映画.comより引用

総天然色に血塗られた骸たち

時代劇といえば、暗めの衣装で統一された荘厳さをイメージする。重々しさを感じる衣装に血飛沫が舞うことで痛ましい人生が滲み出てくるといった感触だ。しかしながら、本作は異なる。東映70周年記念作品ということもあってか、まるで白黒映画からカラー映画に転換する時代を思わせる作品となっている。つまり、総天然色なのだ。キムタク、綾瀬はるかだけではなく、脇役の衣装も青、赤、金に緑ととにかくカラフルなのだ。集会の場面においても、今で言うオフィスカジュアルOKな会社さながら多様な服装が所狭しと散りばめられており、そこに白い桜が舞う。この美しさ、映画館向けの作品であることを強調する演出に惹き込まれる。

そんな『レジェンド&バタフライ』の監督は『るろうに剣心』シリーズでお馴染み大友啓史だ。彼のアクションは迫力満点のスペクタクルであるのだが、今回は静なるアクションと動なるアクションを巧みに手繰り寄せている。特記すべきは、序盤。政略結婚することとなった織田信長(木村拓哉)と濃姫(綾瀬はるか)が部屋に二人きりとなる場面。音楽はなく、セリフとアクションだけで進行する。イキり信長は、いざ彼女と二人きりとなると何を話したら良いか迷う。とりあえず、肩を揉んでもらう。「軟弱だ」とケチをつけると、激しく肩を揉み始める。怒った彼は刀を抜くが、ひょいっとねじ伏せられてしまう。恐らくスタントを使っていないであろう。はっきりと綾瀬はるかがアクションをやっているのだが、その切れ味の鋭さに圧倒される。ここまでスタイリッシュにアクションできたんだと。序盤は、彼女を高い場所に立たせ、歩み寄るように信長のもとへと降りていく描写で繋ぐ。「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」で知られる信長の弱さを主軸に置く作品、あるいは強い女性像にフォーカスを当てた作品として物語られるのである。濃姫はズバズバと信長に食らいつく。それが対等な議論を可能として戦局を良き方向に変えていく。時には、濃姫自ら斧を片手に市民を血祭りに上げていく。そこまでの脚本は説得力があり面白く観た。

また、動なるアクションに着目すると、白兵戦の場面が壮絶だ。階段を舞台に丸太を転がすもの、柵ごと吹っ飛ぶものがいる。矢が飛び交う中、カメラがパンをすると、坂の下の方でも乱戦が繰り広げられている。単に早いアクションではなく、空間全体をじっくり魅せていく演出に大友啓史監督の新境地を観た。

一方で、3時間近い映画にもかかわらず本能寺の変まで描くまでの時間が不足している気がした。確かに映画はある人物のダイジェストである。ファスト人生である。半生を描く作品において数ヶ月、数年飛ぶのはよくあることだ。それでも、あまりにも話が跳躍している気がした。あれだけ強い存在であった濃姫が、イキり男だった信長が闇堕ちしたことで気がつけば形成逆転しているのだ。

いつの間にか徳川家康が現れて、本能寺の変が起こって、エンドロールになっている。やはりこれはNHKの大河ドラマで扱う話で、映画として3時間に収めるには無理があったなと感じた。

※映画.comより画像引用