『Sin Clock』どん底の男たちは、奇跡を信じる時、カッコをつける

Sin Clock(2023)

監督:牧賢治
出演:窪塚洋介、坂口涼太郎、葵揚、橋本マナミ(橋本愛実)、田丸麻紀、Jin Dogg、長田庄平、般若、藤井誠士、風太郎etc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

アスミック・エースさんのご厚意で2/10(金)より新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン池袋にて公開の『Sin Clock』を拝見した。本作は、窪塚洋介(『ファーストラヴ』、『沈黙ーサイレンスー』)、18年ぶり邦画長編単独主演作となっている。あらすじを観るとフィルムノワールの印象を受ける『Sin Clock』の感想を書いていく。

『Sin Clock』あらすじ

窪塚洋介が18年ぶりに邦画長編映画単独主演を務め、どん底の日々を送る男が偶然に導かれ人生逆転計画に挑む姿を描いたサスペンスノワール。

理不尽な理由で会社をクビになり、妻子からも別れを突きつけられた高木は、タクシー運転手として働きながら冴えない毎日を過ごしていた。そんなある日、タクシーに乗せた政治家・大谷が、数億円もの価値を持つ幻の絵画につながる手がかりを漏らす。高木は驚異的な記憶力を持つ番場や裏社会に通じる賭博狂の坂口ら、「3」という数字に奇妙な共通点を持つ同僚たちと手を組んで絵画強奪計画に乗り出す。しかし想定外の出来事が連鎖し、事態は思わぬ方向へと転がっていく。

「ちはやふる」シリーズの坂口涼太郎が番場、「君は永遠にそいつらより若い」の葵揚が坂口を演じる。監督・脚本は長編第1作「唾と密」で注目を集め、本作が商業映画デビュー作となる牧賢治。

映画.comより引用

どん底の男たちは、奇跡を信じる時、カッコをつける

フィルム・ノワールとは、人間の心の闇に迫っていくものだ。成功を信じて悪事を働くが、欲望やミスにより運命の歯車が破損し、とんでもない方向へと転がっていく。その切なさに味わい深さがある。『Sin Clock』は、男たちが悪事を働かざる得ない状況を丁寧に紡ぐ。それだけにトラブルが発生した時の居た堪れなさに哀愁を感じるのである。

主人公の高木(窪塚洋介)は、会社の不祥事に対する責任を押し付けられるようにクビとなる。タクシー運転手として働くも、前職での凄惨な出来事によりモチベーションが限りなくゼロとなってしまっている。負のオーラを纏う彼にチクチクとイヤラしい災難が降りかかってくる。これが実に生々しい。一時停止のラインをほんの少しはみ出てしまっただけで、警察に捕まり事情聴取を受け、呆れたお客が立ち去ってしまうのだ。暗いトーンで絶望、どん底が刻まれていく。彼に導かれるように、どん底で生きる者たちが集まり、絵画強奪作戦へと発展していく。

これだけツキがない男たち。しかし、どん底まで落ちたらあとは上がるだけと思うものである。彼らは、綿密に計画を立てれば絵画を強奪し、裕福になれると盲信してしまう。我々観客は、彼らのどん底を知っている。そう簡単に人生逆転できるとは思えないし、その方法が「強奪」と犯罪だ。明らかに死亡フラグが立っている。だが、彼らの目はギラギラと輝いており、もう後戻りができない状況となっている。運命の歯車が回った時の、彼らの狼狽を観ると切なくなる。『Sin Clock』はどん底にいるものが蜘蛛の糸にすがるような思いで悪事に手を出してしまう哀しさに寄り添った作品といえよう。

2/10(金)より新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン池袋にて公開。

※映画.comより画像引用