UN AUTRE MONDE(2021)
Another World
監督:ステファヌ・ブリゼ
出演:ヴァンサン・ランドン、サンドリーヌ・キベルラン、アントニー・バジョン、マリー・ドリュケール、Guillaume Draux etc
評価:55点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
『ティエリー・トグルドーの憂鬱』で労働者を描き、『En Guerre』で労働者と経営者との間で板挟みになる労働組合の男をヴァンサン・ランドン主演に描いてきたステファヌ・ブリゼ監督新作は、遂に経営層へとメスを入れた。経営層に近い中間管理職を描く本作は、集大成ともいえる生々しい会話劇へと仕上がっていた。
『UN AUTRE MONDE』あらすじ
Un cadre d’entreprise, sa femme, sa famille, au moment où les choix professionnels de l’un font basculer la vie de tous. Philippe Lemesle et sa femme se séparent, un amour abimé par la pression du travail. Cadre performant dans un groupe industriel, Philippe ne sait plus répondre aux injonctions incohérentes de sa direction. On le voulait hier dirigeant, on le veut aujourd’hui exécutant. Il est à l’instant où il lui faut décider du sens de sa vie.
訳:会社経営者、その妻、その家族。彼らのうち一人の職業上の選択が、全員の人生を変えてしまう時代に。フィリップ・ルメスルとその妻は、仕事のプレッシャーで愛情を失い、別居している。ある企業グループの幹部として成功していたフィリップは、経営陣の支離滅裂な命令に対応できなくなった。昨日は経営者、今日は執行者ということだ。彼は、自分の人生の意味を決めなければならない時期に来ているのです。
経済の悪魔に残された人間味
正直、本作は映画的運動の面白さは全てカットされているといっても過言ではない。経済の悪魔による冷たく生々しく人が切り捨てられ、孤独が広がっていく様子をひたすら連ねていく。ヴァンサン・ランドン演じる経営層の男フィリップ・ルメスルは、会社優先の生活を送っていたため家族には冷たい風が吹き荒れている。会社の方は、リストラやレイオフで人を切る必要がある。上司ポジションの人が、「この部署は潰しても構わないよね」と言い始め、少し踏みとどまろうとするも、数字的論理を前に無力で、リストラ、レイオフの方向へと転がる。頭を抱えながら、家とオフィスで数字と睨めっこする。面談では、部下たちは激しく抵抗をみせるが、数字という決定的事実を自由自在に操れば簡単に粉砕できる。だが、果たしてこれで良いのかと僅かながらの良心が悩む。
象徴的なシーンとして、子どもが操り人形で遊ぶ場面がある。これは人を操っている存在であるフィリップ・ルメスルが実は経済システムを前に操られていることのメタファーとして見ることができる。経済社会に操られている彼が、僅かながらの時の中で家族と笑みを浮かべる。人間味はまだ残されていることを強調する場面に少し惹き込まれた。とはいえ、『En Guerre』ぐらいの動きはほしかったものがある。
※MUBIより画像引用