オーファンズ・ブルース(2018)
監督:工藤梨穂
出演:村上由規乃、上川拓郎、辻凪子、佐々木詩音、窪瀬環etc
評価:85点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
先日、『裸足で鳴らしてみせろ』を観て工藤梨穂監督に注目するようになった。Amazon Prime Videoにて過去作『オーファンズ・ブルース』が配信されていたので観た。本作は、京都造形芸術学部の卒業制作作品であり、PFFアワード2018グランプリを受賞している。実際に観てみると意表を突く作品であった。
『オーファンズ・ブルース』あらすじ
失われゆく記憶に苦悩しながら幼なじみを探す女性の旅路を描き、ぴあフィルムフェスティバル2018グランプリを受賞したロードムービー。夏が永遠のように続く世界で生きるエマ。記憶が欠落する病を抱える彼女は、常にノートを持ち歩いて些細なことでもメモをしている。そんな彼女のもとに、行方不明の幼なじみヤンから象の絵が届く。消印を手がかりにヤンを探す旅に出たエマは、ヤンの弟バンら関わりのある人々に出会う。しかし旅が進むにつれ、エマの記憶の欠落は加速していき……。主演は「赤い玉、」「クマ・エロヒーム」の村上由規乃。
書かれたカケラは運命づける
カセットテープが動く。カセットテープは過去に書き止めた「時」が再現することであろう。エマは書いている。四角い紙に一生懸命書いて壁に貼る。カメラは少し横に動く。するとビッシリとひしめき合うメモ。彼女はどうも記憶障害を抱えているらしい。彼女は、膨大に書き留めたメモの中から「ヤン」の名を見つける。そして、彼の面影を探す旅に出る。
ふと気がつけば、中国?台湾?外国語で話しかけられる。彼女は狼狽することなく、なんとなく接し一期一会の記憶が流れていく。バーでは、ウォールフラワー。孤独な彼女は、男の人が吸うタバコ、ビールに眼差しを向ける。ヤンがいるかもしれないと期待を抱いていく。
アラビア語に「メクトゥブ」という言葉がある。この言葉には「書かれた」の他に「運命づけられた」という意味がある。本作はまさしくそんな映画だ。記憶がこぼれ落ちないようにメモやノートに書き記す。しかし、どこに書いたのかがこぼれ落ちる。記憶のカケラが溢れるように物理的媒体であるメモやノートが散乱する。しかし本作に悲壮感はない。これが工藤梨穂の手腕と言えよう。『裸足で鳴らしてみせろ』もそうだが、安易な御涙頂戴難病ものになりそうなところを華麗に回避する。話自体はシリアスなのに、閉塞感があるはずなのに開放的なのだ。閉塞感は、自分で壁を作るから発生するものなんだと彼女の映画は遠くへ観客を導いてくれる。
『オーファンズ・ブルース』の場合、記憶が持続しないため、人の助けを借りる。ヤンキーに道を訊いて、何度も教えてもらう場面。観客はハラハラドキドキするだろう。いつヤンキーがキレ出すのかと。でもエマは真っ直ぐに突き進む。運命づけられたヤンの存在へ導かれるように。仲間がヤクザを張り倒して車で逃走しようとも、なんとかなるさと陰りひとつない晴天の世界を駆け抜け、いつしかエマにとってのかけがえのない世界が生み出されていく。
後半に行くに従い、あまりの美しさに現実離れした画が生み出されていくところに感動した。これほど豊かな画を生み出せるとは工藤梨穂監督恐るべし!
確かに、『汚れた血』のオマージュ場面を観ると露骨に感じる部分もあるが、それ含めて私は支持します。
※映画.comより画像引用