UN MONDE(2021)
PLAYGROUND
監督:ローラ・ワンデル
出演:Maya Vanderbeque,Günter Duret,カリム・ルクルー,ローラ・バーリンデン,サイモン・カウドリーetc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第94回アカデミー賞国際長編映画賞ショートリストに入ったベルギー映画『UN MONDE』が凄まじい映画だということなので観てみた。小学生の頃に感じたモヤモヤについて鋭利に斬り込んだトンデモ映画であった。
『UN MONDE』あらすじ
Nora entre en primaire lorsqu’elle est confrontée au harcèlement dont son grand frère Abel est victime. Tiraillée entre son père qui l’incite à réagir, son besoin de s’intégrer et son frère qui lui demande de garder le silence, Nora se trouve prise dans un terrible conflit de loyauté. Une plongée immersive, à hauteur d’enfant, dans le monde de l’école.
訳:小学校に入学したノラは、兄アベルの嫌がらせに直面する。ノラは、自分に反応するよう促す父と、自分に溶け込むことを求める兄との間で、ひどい忠誠心の衝突に巻き込まれていることに気づく。子供の視点から学校の世界に没入する。
大人は守ってくれない、だからボクは耐える、私は沈黙する
小学生の時、イジメが発生すると決まって先生は「イジメの傍観者も共犯者だ!」と説教する。その光景を見て、カチンと来たことはないだろうか?私はあります。だが、小学生にとってそのモヤモヤを言語化することは困難である。それが分かるのは、大人になり政治というものを知り、先生が何をしているのかを理解して初めて言語化できるものである。
誰も味方がいないような学校を前に泣きじゃくるノラは先生に引き剥がされ、学校という小宇宙に投げ出される。ここでの味方は兄アベルのみだ。その心細さゆえに、休み時間、校庭で兄を見つけては「遊ぼうよ」と近づく。しかし、彼は「あそこにいる女の子と遊んで来れ!」と構ってくれない。そうこうしているうちに、アベルが大きな上級生に首根っこ掴まれている光景を目撃する。止めに入るも、彼女も首根っこ捕まれ身動きが取れなくなる。「イジメ」という概念を知らない彼女が直面する「イジメ」。哀しくて、辛くて、怒り込み上げてくる光景。しかし、兄は先生にも言わず耐えている。彼女は何度も兄がイジメられている光景を目撃する。先生を見つけて助けを求めるのだが、先生は他の生徒の問題を解決するのに忙しかったり、事態を解決する先生を召喚することができない。例えば、トイレで水責めに遭っている光景を目撃し、先生を呼ぶも、来た時には全てが終わっており、「こんなところで遊んでちゃダメだよ」となだめられる始末。
段々と、「ある世界」の生き方を知っていくノラの息苦しさを本作は、兄妹の表情だけを捉え、それ以外を不気味な顔のない暴力として形成するカメラワークで描いていく。プールの水がこの生きづらさを象徴しており、暗くて底が見えない水中で、窒息しそうな様子から社会の縮図に対する抑圧を描いている。全体的に、周囲がボケた画でありながらも、決定的瞬間が映ってしまうことでグロテスクさを増幅させている。
例えば、転んで擦りむいたノラに対して先生が面倒を見ている遥か遠くで、ゴミ箱に入れられている兄の姿が映っていたり、学食の中央でイジメられ生徒たちが笑われている様子の手前で、「あれ、ノラのお兄ちゃん?」と友だちに言われ、「ううん、違う…」と言ってしまう残酷さが収められているのだ。
大人は、問題の優先順位に応じて行動する。先生は確かに悪くないのかもしれない。しかし、先生が見えていないところで問題が起こっており、そこに寄り添っていなければ、沈黙し傍観者にならざる得ない。そこに抵抗していると、精神が血だらけになってしまう。そんな「ある世界」を70分斬り込んだ作品であった。ランタイムは70分ですが、タイカンは700分。イジメられた経験がある人にとっては首を絞められ続けるような辛さがありました。
これが長編デビュー作とは正直驚きである。
是非とも日本公開してほしいし、教育関係者、例えば尾木直樹先生とのトークイベントが開かれてほしいものを感じました。
※MUBIより画像引用