ALIVEHOON アライブフーン(2022)
監督:下山天
出演:野村周平、吉川愛(吉田里琴)、青柳翔、福山翔大、本田博太郎、モロ師岡、土屋アンナ、きづき、土屋圭市、陣内孝則etc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
VTuberにハマって以降、肉体と精神の関係性や実況しながらゲームを行う超絶技巧のマルチタスクに興味関心がある。そんな中、eスポーツをテーマにした作品が公開されていることを知った。『ALIVEHOON アライブフーン』日本映画だ。プロゲーマーがリアルのドリフトレースに参戦する内容で、予告編からは『フォードvsフェラーリ』のような胸熱ドラマの香りがした。仕事帰りに観てきたのだが、これが意外な掘り出し物。大傑作であった。
『ALIVEHOON アライブフーン』あらすじ
「ちはやふる」シリーズの野村周平が主演を務め、日本発祥のドリフトレースの世界を、CGに頼らない実車を用いた撮影によるリアルな映像で描いたカーアクション。内向的な性格で人付き合いは苦手だが驚異的なゲームの才能を持つ大羽紘一は、解散の危機に陥ったドリフトチームにスカウトされる。eスポーツの世界で日本一のレーサーになった紘一は、実車でもその才能を発揮して活躍するが、そんな彼の前に、生死を懸けてレースに挑む者たちが立ちはだかる。共演は「ハニーレモンソーダ」の吉川愛、「jam」の青柳翔、「ブレイブ 群青戦記」の福山翔大。「SHINOBI」「キカイダー REBOOT」の下山天監督がメガホンをとり、「ドリフトキング」の異名を持つ元レーシングドライバーの土屋圭市が監修を手がけた。
恍惚のコックピットへ私を連れて行って
冴えない男が帰宅する。電源を上げると、ネオンに彩られた剥き出しのコックピットが出現する。日本一のレースゲームプレイヤー。今晩も練習に明け暮れていた。恍惚の夜が明ける。「部屋」とは言い難い倉庫がそこにあった。夢の世界にまだ足が入ったままの彼を引き摺り出したのは女だった。突如現れた女に導かれるように車に乗せられる。彼女仕様にチューニングされたレーシングカーの助手席に乗る。いきなり、彼女の内なる世界に放り込まれ、リアルの曲芸を魅せられるのだ。eスポーツの勧誘かと思ったら、現実のドリフトレースのテストに巻き込まれてしまった男。いきなり、「では、やってみて」と彼女仕様のレーシングカーを任される。見込みなさげな運転を魅せつけてしまう彼。しかし、「やはりリアルは厳しいかな?」の一言で目つきが変わり驚くべき曲芸を魅せる。それは、ゲームを見下すレーサーまでも次第に変えてしまう。
鋼鉄の肉体と己をシンクロさせ、無機物を有機物の運動に変えていく感動を描いた本作は、内なる世界としてのコックピットを的確に捉え、他者とのコミュニケーションが苦手な男が荒療法で他者の心に入り、影響を与えていく様子を堅実に縁取っており思わぬ収穫だ。
暑苦しく蔑視怒号を浴びせるおっさんが、確かな腕前をきっかけに少しゲームを理解しようとする。その過程で、ドリフトレースの世界に入った自分もかつては、遊ばぬ大人に冷たい眼差しを向けられたことを思い出し、「遊びじゃねぇ」という発言に反省していく。手汗握るレースシーンが中心の映画ながら、このような人間の変化をも汲み取っており素晴らしい。
そしてレースシーンでは、車と車が接触まで数センチの位置でぐるりとヘアピンカーブを曲がる。ハンドルを回す。アクセルとブレーキをコミカルに踏む、ギアを変更するといったアクションを的確に刻み込む運動を軽快に繋ぎ合わせていく心地よさが観る者の心を鷲掴みにした。
ゲームだろうとリアルだろうと、チームを機体を信じ、精神と無機物をシンクロさせることで自由に肉体を羽ばたかせる快感、そしてその快感が宿すフェロモンが周囲を変えていく様を盛り上げに盛り上げた大傑作であった。
※映画.comより画像引用