『ドンバス/Donbass』ウクライナ、煽りの軋轢、突発的暴力

ドンバス(2018)
原題:Донбасс
英題:Donbass

監督:セルゲイ・ロズニツァ
出演:ヴァレリウ・アンドリウツァ、ナタリア・ブスコ、Evgeny Chistyakov、Georgiy Deliev、Boris Kamorzin、Sergey Kolesov etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2022/2/24ロシアがウクライナに侵攻する事件が起きた。政治的関係性により、NATOも国連もアメリカも介入できず、孤立無援な状態で蹂躙され、チェルノブイリも制圧されたと聞く。Twitterでは常時不穏なニュースが流れてきて、終末を感じる。さて私はそんな時に何を観るのか?答えは一つ。セルゲイ・ロズニツァの『Donbass』だ。ウクライナ出身の彼によるyoutube動画からインスパイアを受け、ウクライナ東部で起きた事件を再現する作品だ。彼は劇映画とドキュメンタリーどちらも制作する監督として知られている。本作はその両方の側面を併せ持つハイブリッドな作品であり、第71回カンヌ国際映画祭ある視点監督賞を受賞した。そんな本作を東欧映画のサブスクリプションサイトEastern European Moviesで観た。

『ドンバス』あらすじ

When war is called peace, when propaganda is uttered as truth, when hatred is declared to be love, then life itself begins to resemble death. In the Donbass, a region of Eastern Ukraine, a hybrid war takes place, involving an open armed conflict alongside mass scale robberies perpetrated by gangs.
訳:戦争が平和と呼ばれ、プロパガンダが真実として語られ、憎しみが愛であると宣言されるとき、生命そのものが死に似てくるのです。東ウクライナのドンバスでは、公然の武力衝突とギャングによる大規模な強盗が混在するハイブリッドな戦争が起きている。

MUBIより引用

ウクライナ、煽りの軋轢、突発的暴力

化粧をするスタッフたちが一斉に外へと飛び出す。様々な立場の人が、物陰から一直線に並び、様子を伺っていると爆発が起こる。その先へ向かうと破壊の跡が残っていた。日常が突如破壊されるところから物語は始まる。すべて、youtube動画のような長回しとカット割りで、ウクライナで起こっている惨事をモザイク状に貼り付ける。怒れる市民が会議を襲撃し、うんこを投げつける強烈なシークエンス。運転していたら突然爆撃を受ける場面は衝撃的だ。

そして何よりも、ドイツ人ジャーナリストを煽る軍人のシーンが恐ろしい。「テメェ、ファシストか?」と軍人が集まり、ヒトラーポーズをしながら、パスポートを奪い、「真実を書けよな!」と軍人たちが信じる真実を押し付けようとする。そして、女性が止めに入ると、「ちっ、お前はファシストじゃねぇかもしれねぇが、爺さんはどうかな?」と捨て台詞を吐きながら去っていく。誰かが、次のヒトラーはヒトラーを否定しながらやってくると言っていたが、それがこのシーンで現れており、なんと2022年において現実に発生してしまっている様子に胸が苦しくなる。

本作は凄惨なウクライナ情勢だけでなく、プロパガンダのような場面も盛り込むことで多角的視点を与えている。病院で「同志よ!」と演説する男が、チョコレートを少年に配るところは、プロパガンダ広告的な手の差し伸べが描かれている。

本作は、ウクライナの込み入った情勢が描かれているため、わかりにくいエピソードもあるのだが、それでも今観る必要のある映画だったと言える。

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※MUBIより画像引用