MASS(2020)
監督:フラン・クランツ
出演:ブリーダ・ウール、カゲン・オルブライト、ミッチェル・N・カーター、マーサ・プリンプトン、ジェイソン・アイザックスetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
2022年映画初めは日本未公開作品『MASS』にしました。『キャビン』のマーティ・ミカルスキ役や『ドールハウス』のトファー・ブリンク役で知られるフラン・クランツの監督デビュー作である。銃乱射事件の被害者と加害者による会話劇。これが単なる演劇的演出で終わってしまっている映画ではなかった。幸先の良い映画初めができました。
『MASS』あらすじ
Two couples meet for a painful and raw conversation in the aftermath of a violent tragedy.
訳:2組のカップルが出会い、激しい悲劇の後、痛々しく生々しい会話を交わす。
※MUBIより引用
被害者の憎悪から赦しを生み出せるのか?
教会に女の人(ブリーダ・ウール)が入る。神父らしき者が子どもにピアノを教えている為、待っててと合図される。しかし、終わりそうもないので彼女は支度を始める。青年が皿を洗っている。彼女は声をかけるが、軽く振り向くだけで素っ気ない態度を取る。そんな中、黒人女性ケンドラが現れる。ぎこちない空間が、広がる。女は彼女に引きつった笑みを浮かべながら、「テービルはこんな感じでいい?」と聞く。しかし、ケンドラ(ミシェル・N・カーター)はスマホを見たまま視線が交わらない。そうこうしているうちに本日の主役が現れる。ジェイ(ジェイソン・アイザックス)&ゲイル(マーサ・プリンプトン)夫婦とリチャード(リード・バーニー)&リンダ(アン・ダウド)夫婦だ。6年前に銃乱射事件があった。ジェイとゲイルは息子を失った。一方でリチャードとリンダの息子はその時に大量殺戮を行って自殺した。つまり被害者と加害者の親が対峙しているのだ。緊迫感ある対話が幕を開ける。
リンダは花をプレゼントする。机の中心に置かれる花。スッとゲイルが受け取るが、乱暴に中心へと戻す。両親に罪はない。それは分かっているのだが、許せない態度がそこに現れている。一旦、受け入れ拒絶する態度を取り続ける。それをジェイはなだめようとする。しかし、リチャードとリンダが息子に対して怖かったと語ったり、自分を責めていると供述しはじめてからヒートアップしてしまう。冷静だったジェイは戦争ゲーム「コール オブ デューティ」をプレイしていたことにツッコミを入れ、自分が心理学者ではないと前置きをし、自分を守りながら相手を攻め立て始めるのだ。
本作は、本心では払拭することのできない憎悪といかに向き合うかを描いている。一見地味な舞台劇に見えるが、視線の交差に映画的演出を感じる。被害者家族のジェイとゲイルの目線の先には十字架が映っている。二人はカトリックである。イエスは他者を赦すことを謳っている。頭の中では分かっているし、目の前にいる人物は直接的な加害者ではない。しかし、間接的に自分は傷ついており憎悪が支配している。その葛藤の中、どのように折り合いをつけるのか。冒頭の直接関係のない人たちによる視線の交わらなさによるぎこちない会話が映画のテーマを強調しており、他者と見つめ合う必要があることを物語っている。最初は、リチャードとリンダを直視していなかったゲイルが段々と相手を見つめるようになることで自分自身に折り合いがついていく。ゲイル役を演じたマーサ・プリンプトンの繊細で力強い演技がそれに説得力を与えている。
今、世界的に不寛容で赦しを与えられなくなっている。そんな時だからこそこの映画は多くの人に刺さる作品に仕上がっていたといえよう。
※MUBIより画像引用
