パサジェルカ(1963)
Pasażerka
監督:アンジェイ・ムンク
出演:アレクサンドラ・シュロンスカ、アンナ・チェピェレフスカ、ヤン・クレチマルetc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
皆さんは未完の映画をご存知だろうか?そもそも未完=制作中止だから沢山あるのでは?と思うでしょう。この世には、監督の急死により未完に終わったものの、残されたスタッフが力技で完成させた映画がある。しかもそれが傑作だったりする。今回は「死ぬまでに観たい映画1001本」掲載の『パサジェルカ』について書いていく。
『パサジェルカ』あらすじ
一九六一年。大西洋を渡る豪華船上にリザ(アレクサンドラ・シュロンスカ)の姿があった。彼女はアメリカで夫ワルター(ヤン・クレチマール)と結婚し、故国ドイツに帰る途上であった。船は最後の寄港地イギリスの港に着いた。タラップをひとりの女性が上がってきた。突然、リザの心の平和はかき乱された。その女船客は、あまりにマルタ(アンナ・チェピエレフスカ)に似ていた。一度は葬ったつもりの、いまわしいアウシュヴィッツでの過去が再びリザの心を占領した。あの状況の中でドイツの一女看守だったリザが、自分の意志を貫くことは難しかった。マルタは、そんなアウシュヴィッツの女囚のひとりだった。リザはひ弱そうな感じをあたえるマルタに同情して、楽な仕事につけ、同じ収容所に許婚者タデウシュ(マレック・ヴァルチェフスキ)がいると知れば、逢わせもした。リザは、そんな親切を通じて、マルタとの人間的なつながりを求めたのだ。しかし、なぜかマルタは、そんなリザに冷い表情をくずそうとはしなかった。そしてある日、マルタは捕えられ“死の兵舎”に連れ去られた。--リザは夫に話し終えた。だが再び、リザは自分自身に真実のことばを語らなければならない--リザは確かにマルタに同情した。が、義務に追われるリザには及びもつかない、人間らしい“恋”に心を燃やすマルタに、嫉妬を覚えたのも確かだった。リザは、心のすきまをマルタを服従させ、征服することで埋めようとした。そんなとき、国際委員会が収容所のもようを視察に来た。委員の質問に、はじめは無言の抵抗を示したマルタだったが、リザの射るような視線に屈服して「収容所の扱いは人道的だ……」と答えた。リザは勝利に満足した。さらにこの“処置”が上司の賞讃の的になり、リザは本国への転勤が決った。しかしマルタは決して服従を誓ったわけではなかった。宿舎の壁のすき間から外部との連絡らしい紙片が出てきた。犯人はマルタであった。自分の部下に犯人がいたとなれば、看守として致命的な失策である。マルタの頬にリザの平手打ちが鳴った。--リザの告白は終った。船は出ていった。二人が再び逢うことはないだろろ。そしてアウシュヴィッツが再び忘却の中から立ち上がり、リザの顔に告発状を投げかけることもないだろう。……果してそうだろうか--。
前代未聞の未完映画
船の上で女性が見つめ合う。アンジェイ・ムンク監督急死の為か満足に船のシーンが撮れなかったようで、二人の女性が見つめ合う場面は写真のスライドショーで構成される。それが過去に引き裂かれた女性の、今は静止してしまった時を象徴するよう。またはかつて愛した女性との思わぬ再会に時が止まったような感覚を醸し出す。本作は、監督急死により、一部は想像で作るしかなかったと断りを入れた上で、残されたフッテージをつなぎ合わせていく。荒涼とした収容所。残酷な程に冷たくも美しい情景。確かに、このショットを観たら世に出したくなるのは当然であろう。あまりにも美しい。看守リザ(アレクサンドラ・シュロンスカ)は女囚マルタ(アンナ・チェピエレフスカ)のことが気になっている。しかし、看守であるが故、冷徹な仕草でマルタに接するが、内面では彼女に会いたくてしょうがない。だから「あとは自分がやるよ。」と他の看守を他の仕事に追いやって、密かにマルタに会ったりする。本作はバレるかバレないかサスペンスとしてよくできており、マルタが犬嫌いという特性を活かして、重要な場面で犬が飛び出してきたりする。また、抑圧された表情、抑圧されたナレーションの片鱗に感情の高まりを感じさせるところに面白さがある。なんとなく『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が流行る日本でこの映画をちゃんと紹介したらまた盛り上がるのではないだろうか?
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※IMDbより引用