【 #サンクスシアター 10 】『THE DEPTHS』濱口竜介の深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ

THE DEPTHS(2010)

監督:濱口竜介
出演:キム・ミンジュン、石田法嗣、パク・ソヒョン、米村亮太朗、村上淳etc

評価:55点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、第71回ベルリン国際映画祭の受賞作品が発表され濱口竜介の短編集『偶然と想像』が審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞しました。ベルリン国際映画祭といえば社会派な作品が受賞する傾向が強いのですが、ヒリヒリする会話で人間を描くのを得意とする彼が受賞したことで、新しい突破口を開いたと言えよう。濱口竜介の受賞を記念して、彼の過去作『THE DEPTHS』をサンクスシアターで観ました。まだ、『PASSION』で映画芸術界隈に注目されている程度の知名度だった彼の作品ですが、他のインディー監督とは違った映画分析が観られる一本に仕上がっていました。

『THE DEPTHS』あらすじ

東京藝大と韓国国立映画アカデミー共同製作による『PASSION』の濱口竜介最新作。日本に滞在することになった写真家のペファンは、偶然出会った若者リュウに魅せられる……。『チョルラの詩』のキム・ミンジュンと『カナリア』の石田法嗣が共演。

※東京フィルメックスサイトより引用

濱口竜介の
深淵をのぞく時、
深淵もまたこちらをのぞいているのだ

濱口竜介映画の面白いところは、会話劇でありながらも映画的ショットを常に意識しているところにある。『親密さ』における第一部から第二部に切り替わるまでのスムーズな動き、『寝ても覚めても』における冒頭のストーカーシーンにおける距離感と丘の横移動を使った心の距離感をリンクさせていくところに魅力がある。クローズアップ一撃必殺なホン・サンスとは違って、同じ会話劇監督であっても映画史の積み重ねから来る手数の多さ、あるいは発展のさせ方に魅力がある。

本作は、映画の内容自体全く乗れず、退屈してしまったものの、カメラマンを主人公に置いている以上、カメラマンに拘り抜くべきだと彼の強いメッセージを感じ取った。映画において、主人公の描きこみは重要である。どんな仕事をしているのか、クズならどういうタイプのクズなのか。そこを掘り下げれば掘り下げるほど物語に深みが増す。濱口竜介は、多くの作品で時間をかけて人の会話を紡いでいくことでその登場人物が映画にとって必要不可欠なものであることを証明していく。

『THE DEPTHS』は濱口竜介映画として最短でその必然性を証明し且つ本作の意図を提示することに成功している。

結婚式の場面でペファン(キム・ミンジュン)が新郎新婦を撮影する。すると、新郎新婦がカメラの存在に気づいて近づいていき、カメラを奪われ逆に撮られてしまう。その様子をデジカメで撮影している群衆も映される。それをシャッターが切られる刹那の静止を交えて描く。

これだけで、この映画は撮る側=傍観者が、傍観する内に混沌の渦中に放り込まれ、傍観される側に回ってしまう話だと分かる。一歩、引いたところから世界を観ているのに、興味のある対象をジッと見つめてしまうことで、もはや抜け出せなくなってしまう様子に説得力があるのです。もし、濱口竜介がヤン・ゴンザレスの『ナイフ・プラス・ハート』を観た上で本作を撮ったのなら、単調陳腐で浅い同性愛や男娼描写に深みが増しただろう。諸々の余裕がなかったせいか、死体が明らかに瞬きしていたりするミスショットも目立っていたので残念な作品ではあったのですが、少なくてもアルフレッド・ヒッチコックが得意とする巻き込まれサスペンスの文法を鋭く解釈した映画であったと思う。

※OUTSIDE IN TOKYOより画像引用

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