ときめきメモリアル(1997)
監督:菅原浩志
出演:岡田義徳、榎本加奈子、中山エミリ、矢田亜希子、山口紗弥加、池内博之、吹石一恵etc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
TSUTAYA渋谷店にあるVHS、実はレアなのは日本映画だったりする。洋画はなんだかんだMUBIとか輸入DVDで観賞可能だったりするのですが、日本映画でDVD化されていないと観賞が絶望的だったりする。例えば、カンヌ国際映画祭に出品されたグロテスクな時代劇『闇の中の魑魅魍魎』なんかはTSUTAYA渋谷店のVHSコーナー以外で入手するのは不可能に近かったりする。さて、物色をしていた私。ひょっとしたら、黒沢清のゲーム映画『スウィートホーム』があるのかもしれない?と思って探してみました。残念ながら、それはありませんでした。代りに、実写版『ときめきメモリアル』を見つけました。
『ときめきメモリアル』とはコナミから出た恋愛趣味レーションゲーム。自分の世代のマスターピースであります。それが実写化されていたのです。監督は、宮沢りえ映画『ぼくらの七日間戦争』の菅原浩志だ。
『ときめきメモリアル』あらすじ
97年に公開された、同名の人気恋愛シミュレーションゲームの映画化作品。『やまとなでしこ』の矢田亜希子、榎本加奈子らが出演した青春ラブストーリー。うまく仲間に溶け込めない明彦が、高校最後の夏にアルバイト経験を通して成長していく。
全員ツンデレ、地獄で天国な海の家
正直、ジェンダー問題が広域で議論されるようになった今において本作での性的視点や女言葉は小っ恥ずかしく受け入れがたいものがある。出てくる女子は、「~なのよ」「~だわ」と女性言葉を使い、「男なんだから」と男性/女性のラベルを用いて関係性を示すところはもはや時代外れの表現だったりする。
しかしながら、ショットや編集の積み重ねで、高校三年生の永遠に続きそうな夏の尊さを紡ぎ出す様子は素晴らしいものがある。どういうことだろうか、まるでジャック・ロジエのバカンス映画のような美しさに満ち溢れているのである。いや、本作は『オルエットの方へ』のヘナチョコ男子目線から見た映画そのものなのだ。
主人公、鈴木明彦(岡田義徳)はウォールフラワーな高校生。勉強もスポーツもイマイチで、一人補講を受けている程だ。そんな彼は女性と付き合いたい欲にまみれており、女子更衣室を友人と一緒に覗きに行くの。女子更衣室の中心に立ち、光を浴びるシーンが美しくも気持ち悪さが充満している。そこへクリシェがごとく女子が雪崩れ込んでくる。ロッカーに隠れる明彦。彼の手汗にぎるスリルと、欲望からくる爬虫類的眼差しの先で女子がガールズトークをする。ここで今回のヒロインたち、西村小麦(榎本加奈子)、遠野波絵(中山エミリ)、原田夏海(矢田亜希子)、横山美潮(山口紗弥加)の自己紹介が始まる。今の映画であれば、VFXでテロップを出して名前の紹介をしてしまうのだが、本作ではロッカーに貼ってあるシールで顔と名前を一致させるのだ。新鮮である。
明彦は彼女たちと付き合いたい一心で、海の家のアルバイトに応募し雇われるのだが、初日にして全員から「何、このキモ男?」とガンをつけられてしまう。彼女たちには、おにぎりヘッドのマッチョ佐川浩介(池内博之)がいて既に関係性が出来上がっていたのだから。
完全アウェーな状態から地獄のアルバイト生活が始まる。その過酷さはセリフに頼らず、画で表現している。例えば、モノを運ぶ際、浩介はスイスイと荷物を運ぶ。その後ろから女子たちは二人三脚で荷物を運ぶ。その後ろで明彦はフラフラになりながら重くて大きいモノを運んでいる。そしてよろついた勢いで、部材が女子にあたり、そのまま海に落ちてしまう。カナヅチなので、必死に掴むものを探していると女性の乳房を鷲掴みしてしまう。本作の女子はセクハラには容赦しません。『デス・プルーフ』の女性のようにパンチを喰らわせノックアウトするのです。別の場面では、彼女たちが進路について黄昏に浸りながら語り合う。長い夏休みでありながら、黄昏時にいることを知る彼女たち。バラバラになってしまうことに不安を抱き、今を大事にしているのだが、そこへ明彦が土足でズカズカと入っていく。そんな奴に全員蔑視の目を浴びせるのだ。
彼は完全にお荷物として彼女たちはちょっかいを出し続ける。だが、その行為によって明彦は自分のポジションを確立していく。浩介は寡黙で真面目だ。冗談が通じない。だから、その避雷針として彼に八つ当たりしていくのだ。完全に『オルエットの方へ』である。
正直、『ときめきメモリアル』要素はないし、4人も女子がいるにもかかわらずキャラクターの描きわけができていない。全員が気の強いタイプなのだ。だが、気の強い女子が4人に分裂し、彼女たちの豪快なアルバイトライフに振り回されていくうちに一皮剥けていく様子はこれはこれでアリだったりする。八百屋や工場に色仕掛けと営業トークでおまけを大量ゲットしていく女子たち。それに対して「やきそば、やきそば、やきそば、やきそば、おでん、おでん、おでん」と呪文を唱えられヒィヒィ言いながら料理を作っていく彼を通じて、社会で活躍する女子に光を与えているように見える。
そんな壮絶さは、嵐の中崩壊する海の家で大団円となる。
ポンコツな部分も多いし、ゲームのファンからすれば激怒ものの作品ではあるのですが、青春キラキラ映画にありがちな気持ちの高ぶるとやりがちな走る場面を奥行きあるショットで構成していたり高度な編集で盛り上げていたので、個人的に嫌いではない、寧ろ傑作だったのではと思うのであります。